次元暦 895.108。TERA-001。ガーディアンとて戦ってばかりいるわけではない。彼女たちだってまだ若い。主観年齢はまだ20歳に達していなかったし、その上、これほど長い間「覚醒」したままでいることもついぞなかった。従って、彼女たちが本来の任務をほんのちょっぴり忘れて、ファッションだの恋愛だのに大騒ぎしても、それは仕方のないことだったし、そこまでプリンセスも期待していたわけではない。(とハノイユは力説する)何より、いつもいつも「覚醒」したらすぐ戦いですぐ「封印」という慌ただしい状態なのである。たまに休暇が取りたいと思ったからといって、罰が当たるものでもあるまい。(とサライユは主張する) というわけで、ガーディアンたちも現在は休暇中であった。が、 「だから、どうして皆ここにいるわけ?」 「いいじゃない。お休みなんでしょ?」 「そりゃそうだけど」 年頃の女の子が何をするでもなく、他人のマンションに入り浸りというのも情けないものがあるんじゃないの? とサライユは言いかけて、やっぱり言うのをやめた。自分だって、その情けない一団の一人であることを思い出したからである。ただ、それにしても、余りに不毛な光景だわ、とひとりごちるのは忘れなかったが。 ここは、アミアの住んでいるマンションである。築5年の3LDK。うち一部屋は、こっそり改造して野戦用次元連絡装置だの汎用メンテナンスユーティリティだのが設置してある。それにしても、3LDKという間取りに加え、外観、内装ともに高級なこのマンションは、かなり高額な物件である。高校生の一人暮らしのスペースとして考えた場合、この世界ではとんでもなく非常識な住まいとなる。当然のことながら、周囲の好奇の的になってしまったのだが、アミアは何も考えずに、のほほんと1ヶ月以上も暮らし続けた。で、ある日、ある程度仲良くなった友人たちが口を揃えて「歩はお嬢様だから……」と言うのに不審を抱いた結果、その事実が判明したのである。もちろん、時既に遅く、実は大資産家の令嬢(!)だの、実は親戚の莫大な財産を相続したみなし児だの(アミアの世界には遺産相続という概念がない)、実は某国の超名門貴族の一人娘だの(これは半分当たってる)、とんでもない噂が街と言わず学校と言わず飛び回っていた。鷹神の態度の原因のひとつには、そういうことも含まれている。ちなみに、潜入工作員は目立たず騒がれずに暮らすことという戦術諜報論の教科書の冒頭に載っている基本中の基本を、いきなりぶち破る羽目になってしまったアミアは、担当上司から情報局史上最大の大目玉を食らっている。 それはともかく、ガーディアンたちである。エマイユは、きちんと正座して、アミアのキューブライブラリを丹念に検索して何やら調べものをしている。端正な横顔には溢れんばかりの知性が輝き、これはもう美人と言わずして何というのかというくらいのものである。ハノイユは腹ばいになって、「弓」とか「剣」なんていうちょっとマイナーな雑誌を読んでいる。悪戯好きの少年のような雰囲気があるが、実はそう装っているだけで、やはりとんでもない美少女であることがわかる。 「あのな」 ルナイユはクッションを抱えて「花と梅」なんていうマンガを読んでいる。上級生といわず同級生といわず自称「お兄ちゃん」を山のように従える、悠久無辺のロリロリ美少女である。 「何それ」 その横であでやかに足を崩し、ヘッドフォンで音楽を聴いているマナイユに至っては形容する言葉がない。天性のカリスマとその天下無敵の美貌は、戦いのために授けられたものではあるまいに。 「余計なお世話よ」 そして、その全員を見回すサライユ。類まれな愛らしさと繊細な感受性を…… げしっ! 「いたぁい!」 「さっきから、なぁに、恥ずかしいことブツブツ言ってんだよ」 「だぁってぇ」 「ほらほら、ハノイユも乱暴なことをしないの」 「あぁあん、エマイユぅ、ハノったら、サラのこといぢめるぅ〜」 「暇だからって、怪しいことをぶつぶつ言うサライユもいけないの」 「ああ! マナまでそんなこと言う〜!」 「ルナイユは、ロリロリなんかじゃないからね!」 「だったら何であんなに『お兄ちゃん』が一杯いるのよ」 …………女3人よれば姦しいというが、5人である。敢えて語るまい。まあ、ああだこうだと騒ぎながら、結局アミアのマンションに主がいようといまいと入り浸り、そういう毎日を過ごしている。 「でもホントに誰も恋人がいないの?」 マナイユの一言でいきなりシンとなる室内。 「ねえ、ハノイユ?」 意味ありげにマナイユが微笑みかける。タキオンより早く頬を真っ赤に染めたハノイユに、全員の視線が集まる。 「あた、あ、あたた、あたしはぁ………」 「うふふ」 エマイユがまた意味ありげに含み笑いをする。 「ああ、エマイユ知ってるのね!」 サライユがずずぃと詰め寄る。 「さあ、私から言うのもなんだし……」 と、視線をハノイユに投げかけてとぼけた返事を返す。 「ハノ! だめよ! 隠し事は!」 「べ、べ、別に、隠してた訳じゃ…………」 「ね、ね、ルナイユにも教えて! どこの人? 名前は?」 「あら、人のことを聞く前に、まず自分のことから話すのがマナーというものよ」 マナイユがやんわりとルナイユを牽制する。その言葉に、さあっと顔色を変えるルナイユ。 「な、な、な、なんのことかなぁ?」 「うふふ。さあ、何のことかしら?」 「ひ、ひどい! ルナまで恋人がいるのに隠してたのぉ!?」 「いや、あの、ははは。か、顔が怖いよ、サライユぅ……」 以後の喧騒は、まあ、想像がつくというものだ。どこの誰かに始まって、いつの間にそういう相手を見つけただの、何故デートもせずにこんなところでごろごろしてるのかとか、キスはしたか、避妊はちゃんとしてるか……etc.etc. 一体どこでそんな情報をマナイユは手に入れてきたのかという根本的な疑問を持つものはおらず、ひたすら尋問と嬌声の大騒ぎは続く。そこへ、 「ただいま〜。…………って、どうしたの?!」 主のご帰還である。質素だが、清潔感のある桜色のワンピースといういでたち。 「あ、アミア! ちょっと聞いてよ! ハノイユとルナイユがねぇ!」 騒ぎに引き込もうとサライユが飛び出して腕を掴む。 「ハ、ハノイユとルナイユが……どうかしたの?」 「そうなのよ! 私やマナイユを差し置いて!…………」 「何? どうしたの? サライユ?」 「このコロンの香りは……とっておきのためにしまってあったはずの"Misty Wave"のような……」 「(ぎくっ!)き、気のせいよ!」 「で、リップには………中央で流行だと言ってた、"Classic Taste"のパールピンクをつけて……」 「(ぎくぎくっ!)よ、よく覚えてるわね……」 「ブロウも念入り……ワンピースも……質素だけど、誂えたみたいにぴったりね……」 「あの……サライユ?……」 「なんかいそいそと出かけると思ったら!……」 「……たら?……」 「あんた、デートだったのねぇぇ!!!」 「サ、サライユ! 落ち着いて! きゃあ! な、何を!」 「ええい! きりきり白状しませい!」 「な、なんなのぉ〜!?」 「別に信じてもらわなくても俺は困らないんだけど……」 自分が何を言ったかわかってないのかこいつ!と言いたげな表情で、ミサは淳を睨みつけた。 「あなたがただの人間なら、つまらないヨタ話のお礼に百叩きの刑くらいで放免してあ げるわよ」 「おいおい、そりゃ物騒な」 「でもあなたには『力』がある。私たちは、その『力』のおかげでどれくらい迷惑を被ったか」 「………………」 「黙ってるところを見ると、何のことか心当たりがありそうね」 「まあ……ね……」 「だから、あなたが何者なのかは無視することができないわ。私たちにとって『力』を正しく使ってくれたのは『ソルジャー』だけ。だから私たちは彼を捜してるし、彼にその気があるかどうかは別にして、予想される災害に介入して欲しいし、できれば未然に防いで欲しいわ」 「《光》と《闇》の戦いに介入しろと?」 「他に何を頼むの?」 淳とミサの間を風が吹き抜けていった。 「…………では、何を見せれば俺が『ソルジャー』だと納得するんだい?」 「セカンド・レポートによると、ソルジャーは、エントロピーの増減を局所的に操作することができるらしいわね。アーリマンにもプリンセスにもできないって記載されてたってことは、使徒にもガーディアンにも無理だということよね」 淳は恨めし気に桜子を見つめたが、返ってきたのは、邪気のない笑顔だけであった。 「……あれに騙されたんだよな。人間暮らしが長くて俺も惚けたかな……」 「何か言った?」 「いや、何でもない。こっちの話」 「それで、できるの? できないの?」 「あのね……簡単そうに言うけど、それは次元法則を無効化するってことなんだよ」 「わかってるわ。これでも基礎くらいはかじったのよ」 「では話が早い。エントロピーの法則自体が、巨大な慣性を持ってることは知ってるね」 「ええ」 「その慣性のために、法則そのものをより高レベルの法則へ収斂させるには、莫大な力と、最低でも星系規模の空間が必要だ」 「つまりできないっていう訳ね」 「地球を過去に引きずり戻すっていうんなら別だけどね。ただそうなれば、君たちもシステムに組み込まれてこの次元で再生することになるから、質問を発したことすら忘れてしまい……」 「証明を確認することができない……と」 「そういうこと」 「じゃ、結局あなたは自分が何者かを証明できないってことになるわけね」 「手厳しいね」 「事実よ」 「そりゃまあ、そうだけど……何か他にないのかい?」 「何かって?」 「ほら、よくあるだろ。これこれは『ソルジャー』しか知らない事実だ、とかそういうのが」 「ああ……残念ながらないわね。仮にそういう事象があったとしても、意味がないわ。使徒くらいの『力』があれば、中央評議会のトップレベルのライブラリだってスキャンできるでしょ? 秘密でも何でもないわね」 「やれやれ。それじゃあ、俺は自分が何者かを証明できないわけだ」 「そういうことなら……」 ミサは、銃口を淳に向けた。 「ミサさん!」 やっと我を取り戻したコズエが、吃驚して後ろからミサに飛びついた。 「コズエちゃん、放しなさい!」 「駄目です! いくら何でも撃ち殺すなんてひどすぎます!!」 「いいこと、コズエちゃん? 彼が本当に『ソルジャー』だったら、これくらい何ともないはずでしょう?」 「でもそれは、ただのハンドキャノンじゃないです!」 「次元構成子崩壊弾がセットしてあるだけで、それ以外は普通のキャノンよ」 「その弾が普通じゃないです!」 「大丈夫よ。予備の弾はちゃんとあるから」 「そういう問題ではありません!」 呆気に取られてその様子を見ていた淳が、話に割り込んだ。 「あのう、お取り込み中のところ悪いけど、何だい、その次元構成子崩壊弾って?」 「『超ひも』の固有振動関係を無理矢理引きちぎっちゃうだけよ!」 「だけ……って、そんな武器を地上でぶっぱなしたら、この星自体がただじゃすまないだろ!」 むきになる淳に、ミサはふふんと鼻で笑って答えた。 「崩壊場が発生しても界面効果で半径1mより外の空間は影響を受けないのよ」 「なるほど」 「つまり、たとえあの世に行くとしても、あんただけですむってこと!」 「それは願い下げにしたいね」 「でもあなたが本当に『ソルジャー』だったら」 「だめ! だめです!!」 コズエの腕がミサの首と肩をがっちりと掴む。 「げ!………く、くるし……」 「撃ったらだめです! 尋問のためだけにそんな目に合わせたら可哀相です!」 「わかった! わかったから! 撃ったりしないから、放して!」 「ホントですね!? 約束ですよ!?」 「く、苦しい……」 「ミサさん!」 「する! するから!……」 ふいとコズエの腕から力が抜ける。慌ててそれを振りほどくと、ミサは思い切りむせ込んだ。 「ゲホ!……ゲホッ!……ったく、一体どこにそんな力が」 「ふむ。何億という文明を見てきたが、そこまで科学技術を発展させた文明は、ノウン・ワールドが初めてだな。今までは全部、そこに行き着くまでに自滅したり、天変地異で壊滅したりしたのに」 「ゴホッ!……人が死ぬかと思う目に合わされてたのに、なに冷静に独り言を言ってるのよ」 「え? ああ、すんだ?」 「………いい性格してるわね、本当に」 「ま、長生きしてるからね」 それまで二人のやり取りを黙って見ていた可憐が、淳に声をかけた。 「ねえ、あれがいいんじゃないかしら?」 「あれ?」 「ほら、一度見ただけだけど、《光》と《闇》の……」 可憐の言葉は最後まで続かなかった。突然、キャノンの発射音がしたと思うと、淳の姿が球面鏡のように見える力場に包まれたからである。 「な!?」 「ミサさん!」 次元暦 895.108。TERA-001。アミアの部屋は束の間の静けさを取り戻していた。有り体に言えば、皆眠ってしまったのである。それぞれ、家族もいれば、家もあるのだが、ガーディアンたちは何かと理由をつけては泊まっていく。今日もそうであった。もっとも、泊まったからといって、夜中に何かするわけでもない。どれほど遅くなっても、日付が変わる前には皆寝る。 「皆、あなたのそばだと気が休まるのよ」 一度、何がよくてこの何もない部屋に皆が泊まりたがるのか、アミアはマナイユに尋ねてみたことがある。その時、彼女はふふっと笑ってそう答えたものである。 「気が休まるって……どうして? 私、何もしてないわよ」 「理屈じゃないの」 マナイユは肩をすくめると、にっこり微笑んでこう宣言した。 「あなたは特別なの。どうしてだかは、わからないけど」 それ以来、アミアはガーディアンたちが泊まっていってくれるのは、光栄なことだと思うことにして、とやかく言わないことにしている。だから今夜もごく当たり前のように食事の準備をし、一人ずつシャワーを使わせ、寝床を整え、ついでに、おやすみのキスをつけてサライユを寝かしつけたのである。で、いつもならその後ベッドに入ると、朝までぐっすりなのだが、今夜は違った。 (ね、眠れない…………) 横になってから、既に3時間以上経過している。だが、一向に眠くなってくるような気配がなかった。 (何時かな?) 枕元の時計を見ると、午前2時を回ったところである。小さくため息が漏れる。 (ココアでも暖めよ) もぞもぞとベッドから起きだし、大きく欠伸をしながらドアを開ける。しんと静まった空間が、妙に空虚だ。 「あら、眠れないの?」 ぎくっとしてリビングを覗き込むと、マナイユがソファに沈み込んでこちらを見ている。 「マナイユ……どうしたの?」 「ん……まあ、色々とね」 そう言って、両手で包み込んだカップを口元に運ぶ。 「そういうアミアこそどうしたの?」 「え、あたしはぁ……」 「そんなに楽しかったんだ」 「は?」 ぽかんとするアミアを尻目に、くすくす笑い、またカップを口元に運ぶ。 「あ、あのねぇ、私は」 「いいの、いいの。わかってるから」 「もう」 「あら、かわい」 ぷっと頬を膨らませて見せても、そう言われたのでは意味がない。 「そんなとこに立ってないで、座りなさいな」 「うん。ココア入れてから」 勝てないなぁ。そう苦笑して、アミアはキッチンに入った。5分ほどしてカップを片手にリビングへ戻ってくる。マナイユの向かい合わせに腰掛けると、静かな口調で問い掛けた。 「心配事?」 「何が?」 「マナイユ。何だか、沈んでるもの」 「ああ……そうね。心配というか、不安というか……」 ココアに口をつけ、マナイユが話し出すのを静かに待つ。月明かりに照らされた彼女の横顔は、明らかに憂いを帯びていた。 「平和だなって思って……」 「うん……」 「怖いのよ」 「怖い?」 「ええ……平和なのに……私たちはまだ目覚めたままだわ」 「休暇なんでしょ?」 「そう。そうなの……休暇なのよ……」 そのまま、ふか〜いため息でも吐きかねない様子で俯いてしまう。 「皆が平和に慣れてしまって、戦いに戻れなくなるから?」 「ううん……そうじゃない……それは、皆を信じてるもの」 「じゃあ、何も……」 「平和なのに……平和なのに、なぜ私たちは目覚めたままなの?」 「え?」 「こんなことは今までなかったわ。戦いが終われば私たちはすぐに退場する。ずっとそうだった。でも、今度だけはそうじゃない……」 「な、何を言ってるの? 休暇だって言ってたじゃない」 「望んでとったお休みなら何も心配しないわ」 「どういうこと? だって、休暇を言い出したのはサライユなんでしょ?」 マナイユは顔を上げると、力なく微笑んだ。 「私がサラをそそのかしたの」 「…………」 「皆を心配させたくなかったから」 「じゃあ…………」 「ダハーカとの戦いの後ね、いつもみたいに封印のキーを起動しようとしたのよ」 「うん……」 「でも、起動しなかった……その時はそれほど深く考えなかったの。まだけりがついてないんだろうって。すぐに次の戦いが始まるからキーが始動しないんだろうって」 「…………」 「でも、その兆しはない……平和なのはいいことよ。でも……違うの……」 「ソルジャーは何て?」 「ソルジャー?」 「そう。相談しなかったの?」 遠くでバイクが走り抜ける音がした。 「元々《光》に肩入れしなくちゃならない理由だってないんだもの。何か知ってるとは思えないし」 「……」 「たとえ知ってても教えてくれるかどうか」 「そんな!」 意外なことを聞かされて、アミアは思わず声を大きくした。 「誤解しないでね。何もソルジャーが意地悪だってことじゃないのよ」 「なら……」 「そうじゃなくて、ソルジャーにはできないのよ」 「え?」 「事態をできるだけ流動的にしておくためにね、そういうことには口を挟まないようにしてるんだって」 「そっか………」 「ひょっとしたら……」 「なに?」 「ううん。まさかね。多分気のせいだと思う………」 またバイクのエンジン音が響き、そして消えた。 「ま、まあ、何にせよ、戦いじゃなさそうだってのはいいことじゃない? のんびり構えて休暇を楽しんだら? ね?」 「そうね」 マナイユがにっこり微笑んだのを見て、アミアも少しばかりほっとした。 「皆には内緒にしといてね」 「うん。わかってる」 マナイユも大変だ……リーダーは先を読んでいつでも適切な行動に移れるように準備しておかなくちゃならない。私には無理だなぁ…… 「そういえば、いつからだったの? 全然気がつかなかったけど」 「へ?」 「鷹神君だっけ? アミアのいい人」 「ちょ、ちょっと、脈絡もなく突然聞かれたって……」 「いいじゃない。私も興味あるもの」 「もう、昼間あれだけ皆に聞かれたのに。マナイユだっていたじゃない」 「あら。今日のデートの様子は聞かせてもらったけど、そもそもの馴れ初めとか、どういう風の吹き回しで今日デートすることになったのかとか、その辺は聞かせてもらってないわよ」 「あ〜あ。マナイユはそういうのを詮索しない人だと思ってたのに」 「うふふ。私だって普通の女の子なんだから。人並みに興味や関心があるわよ」 「やれやれ」 「さ、夜は長いんですもの。ゆっくりお話しましょ」 淳の体は、すっかり力場に包み込まれていた。 「ひ、ひどい……撃たないって言ったじゃないですか!」 コズエがミサに詰め寄る。 「そう言わないと離してくれなかったじゃない」 「……見損ないました……こんな……こんなことをするなんて」 「そうね……別に見損なってくれてもいいわ」 ミサは、力場から視線を逸らさずに答えた。 「彼が本当にソルジャーなら、自力でなんとかするでしょうし、そうじゃないのなら、正体が不明である以上、さっさと退場してもらった方が後々やりやすくていいわ」 「だからって……だからって……」 「何か勘違いしてない? コズエちゃん?」 「え……」 「《光》と《闇》だけでも充分に危険で手に負えないのよ。この上第3勢力めいたものまで現れたら、一体、どうやって対応するの?」 「それは……でも……私たちを助けてくれたんですから、悪い人のはずが……」 「だからといって、彼が安全なファクターだという根拠にはならないわ」 そこでミサはコズエに視線を移した。思わずコズエが後ずさりしてしまった程、厳しい視線だった。 「彼がソルジャーであるのならともかく、そうでないとしたら、戦況を撹乱する要因にしかならないのよ。それを許しておけるほど余裕のある戦いができるわけはないの」 「でも……」 「先輩!!」 いずみの悲鳴に、ミサとコズエは振り返った。二人を無視して、いずみが力場に駆け寄っていく。 「先輩! 先輩!!」 「駄目! その子を止めて!」 ミサの声に真っ先に答えたのは、可憐だった。いずみに避ける間も与えずに羽交い締めにする。 「は、離せ! 可憐!」 「駄目よ。あんなものに突っ込んでみなさい。間違いなく死んじゃうわ!」 「でも! 先輩が! 先輩が!!」 「ソルジャーがあれくらいでどうにかなるはずがないでしょ。落ち着きなさい」 「わ、わかるもんか! 離せぇ!」 暴れるいずみの前に桜子が立ち、いずみの頬を両手で包んだ。 「桜?!……」 「いずみちゃん。ソルジャーのことはあなたが一番よく知ってるでしょ?」 「う、うん……」 「ソルジャーに『滅び』はないでしょ?」 「…………でも……」 いずみの目に大粒の涙が浮かぶ。 「せっかく会えたのに……せっかく会えたのに……また……」 「大丈夫。いずみちゃんを置いてどっかへ行ったりしないわよ」 「でも…………」 「信じられない?」 「信じてるけど……けど……」 不意に桜子がいずみを抱きしめる。可憐はそっと手を離した。 「え?」 「ごめんね……本当なら……本当なら……」 「……アミア……?」 「私……今度だけはあなたたちを……」 その時。空間を引き裂く音が辺りに響いた。 「ミサさん! あれ!」 コズエが力場を指さす。その場にいた者全員の視線が集まるその先に、力場を突き破る腕があった。 「まさか……あれを……あれを……」 コズエは信じられないものを目にしたかのように、身を震わせている。 力場は急速にその形を変えながら、突き出された腕の先に集まっていった。 「先輩!」 いずみの声が響く。力場は完全に縮退し、淳が姿を現していた。そして、いずみに向かってにこっり笑いかけると、腕の先に集めた力場を握りつぶした。 「嘘…………」 コズエの顔がひきつっている。 桜子はいずみを抱きしめていた腕を解くと、その耳元で囁いた。 「ほら。いってらっしゃい」 はじかれたようにいずみは駆け出し、淳のそばに走り寄る。 「先輩?……」 「なんだ、泣いてたのか?」 その言葉を合図に、いずみは再び涙をこぼし、淳に抱きついた。 「馬鹿……馬鹿!……馬鹿馬鹿!……ばかぁ!」 「おいおい。……やれやれ。心配性なところは変わらないな」 「だって!……だって!……」 「わかってる。わかってるよ」 可憐と桜子は、顔を見合わせて、苦笑しあった。 「ハノイユは、やっぱりハノイユね」 桜子の言葉に、可憐が笑いながら頷く。 「さて。やっかいな芸当をやってみせたんだ。もう信用してくれるかな?」 いずみの髪を撫でながら淳はミサに声をかけた。 「そ、そうね」 ひきつった笑顔を見せながら、ミサがうわずった声で答える。 「でもあなたって……何者?」 |