風が強く吹き、桜の花びらが舞い散る。その見事な光景は、見るものをしばし、ここが病院である事を忘れさせる程だった。緒黒 淳は、病院のアプローチに佇みながら、暫く桜を見つめていた。 「桜の下には死体が埋まってる……か」 不吉な言葉を漏らす。その表情もどこか冴えなかった。やがて彼は、病棟に近寄ると病棟に寄り添うように植わっている木に目を向けた。 「龍之介がよじ登った木はあれだな」 少しの間、何か考えていた淳は、意を決したように、病棟の入り口を離れ、その木に近づいて、するすると登り始めた。 「やれやれ。結構大変だな。龍之介もよくやったよ」 やがて、目当ての病室の窓際にまで登ると、中を覗いた。桜子が横になって目を閉じている。腕に刺さった点滴の針が痛々しい。 「…………」 それを見る淳の表情は、何と言えば良いのだろう。優しいような切ないような、穏やかではあるが、どことなく苦しげな表情。ふと、桜子が目を開けて点滴の容器を見る。 「やはり2000年前のことが原因か……」 それでも、ここまで回復してきたのは僥倖と言えるのだろう。淳は、悲しげな瞳で桜子を見ながら、そんなことを考えていた。桜子がゆっくりと頭を巡らし、鳥かごを見る。優しい瞳で何かを囁きかけている。 「命を慈しむところは、変わってないな……」 思わず微笑む淳。急に桜子が入り口を見る。誰か来客があったようだ。淳のいるところからは、顔が見えない。何か盛んにまくしたててるようで、桜子はちょっと驚いたような顔をしている。 「……ホントに何も起こらんかったか?……」 「変なREM君……の中で……はずがないでしょう?……」 微かに声が聞こえる。どうやら、来客は、桜子の身を案じて駆けつけたようだ。 「誰だ?……」 少しかがんで何とか顔を見ようとする。もう少しで顔が見えるというところで、その男が急に窓際に駆け寄り、窓を開けた。 「誰や!」 思いのほか、厳しい目をした男だった。さしずめ、桜子ちゃんのナイト様ってとこかな。淳は笑みを浮かべた。 「人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀だよ」 「な!……」 顔が真っ赤になる。かなり激昂しているようだ。 「REM君、REM君」 「な、なんや、桜子ちゃん」 「そんな恐い顔で睨んでたら、話もできないわよ」 「そやけど、窓の外からこっそり覗いてるなんてなぁ! あからさまに怪しいやろ!」 「いやいや、悪かった。別に他意はないんだ。先程、後輩がお世話になったって聞いてね。同じ所からご挨拶でもって思っただけだよ」 「あら、じゃあ、龍之介君のお知り合い?」 「誰や、その龍之介って?」 REMが、きつい口調で問い詰める。 「どうしたの? さっきから変よ。突然やってきて、変わった事はなかったか、とか、変なやつが来なかったか、とか。何かあったの?」 「い、いや……そういう訳やないけど……」 「じゃあ、何なの? 今日のREM君、とっても、変」 「それは……」 淳が穏やかに微笑みながら、口をはさんだ。 「いや、初対面の挨拶をするには、ふさわしい場所とはいえないかったようだ。申し訳ない。龍之介がここから挨拶したって聞いたもんだから、ちょっと悪戯をしてみたくなってね」 「不謹慎なやつやな。窓の外から病人を覗くなんて」 「悪い悪い。驚かせるつもりはなかったんだ。ところで、僕の名前だけど、緒黒 淳。暁星大学の2回生だ」 「ほら、REM君」 「わ、わいは、Richard.E.McCoy。先負学園や。今度3年になる」 「なるほど、頭の文字をとって、REM君か」 「お前が言うな。わいをそう呼んでええのは、桜子ちゃんだけや」 「すまん、すまん」 淳は微笑みながら、その少年を見た。名前からすると、イギリス人か、アメリカ人だろう。大柄な体は、均整がとれていて、彫りの深いマスクとあいまって、随分ともてそうだ。 「あの……私は……」 「杉本 桜子さんでしょう」 「え……どうして私の名前を……あ、そうか、龍之介君に聞いたんですね」 肯定も否定もせず、淳は桜子に微笑みかけた。 「桜子ちゃん。あんまり得体の知れんやつと、お喋りするもんやあらへん」 「もう。ホントに変。まるで、保護者気取りね」 「………すまん」 「ちが……謝らないで。そんなつもりで言ったんじゃないんだから」 「さて、こうして知り合いになれたことだし。そろそろ失礼するよ」 「え。もう行っちゃうんですか。せっかく……」 そんなところから、会いに来てくれたのに。と続けたかったのだろう。が、さすがにはしたないと思ったのか、口にはしなかった。 「ナイト様が、睨み付けてるからね。また来るよ。じゃあね」 そう言い残すと、淳は木を降りはじめた。 「そういや桜子ちゃん。龍之介って……」 REMの声が聞こえる。しようのない奴だ……木を降りた淳は、ふっと笑った。ああいうところは、昔と変わってないな。初対面のはずなのに、彼は、REMのことをよく知っていた。もちろん、桜子のことも。 「こっそり様子を見るには、窓の外から覗くのが良いと思ったんだが、結局無駄だったか」 仕方ないという表情で、穏やかに笑う。 「まあ、思い立って、すぐに会いに来た甲斐はあったな。あいつを探し出す手間がはぶけたし」 そうひとりごちながら、淳は病院を後にした。まだ少し風があるようで、桜の花が微かに揺れていた。 喫茶『憩』の脇、唯と龍之介の自宅のドアの前に立つ、男の姿があった。さりげない仕草で髪をかきあげ、呼び鈴を押す。 キンコ〜ン。 「は〜い。ちょっとお待ち下さ〜い」 明るい声が返事を返す。ぱたぱたと足音が聞こえ、ドアが開いた。 「こんにちは。唯さん」 「あれ、西御寺君。どうしたの?」 「近くまで来ましたので、ついでにこれを、と思いまして」 そして、一抱えもある黒バラの花束が差し出された。 「こ……これ?……」 「唯さんに差し上げようと思いまして」 「え〜! そんなの悪いよ」 「いえ。遠慮なさらずに、お受け取り下さい」 「だって、こんなの貰う理由もないし」 「理由など必要ありません。美しい女性には、美しい花を捧げるものです」 「ちょ……ちょっと、西御寺君……」 あからさまな賞賛に、唯は頬を赤くして、思わず口ごもる。 「さあ。私に恥をかかせないで下さい」 「う……うん……それじゃあ……」 恐る恐る花束を受け取る唯。それを見て、西御寺は、唯に微笑みかける。 「時に唯さん」 「なに?」 「緒黒先輩を、最近見かけませんでしたか?」 「緒黒先輩? そう言えば、昨日家に来たけど」 「お宅に?」 「ううん。喫茶店の方」 「そうですか。お変わりありませんでしたか?」 「ちょっと大人の人になったかな。でも、どうして?」 「なにがですか?」 「西御寺君て、緒黒先輩とそんなに親しくなかったんじゃないの?」 「ははは。だからと言って、知らない間柄でもないですよ」 「ふ〜ん」 いかにも納得できない様子で、唯が返事をする。西御寺は素知らぬ顔をして、言葉を続けた。 「昨日、この辺りで、先輩を見かけたと聞いたものですから、ひょっとして、こちらに寄られたのではないかと思いましてね」 「そう。情報が早いね」 「いえ……で、どうでした?」 「どう……って?」 「特に変わられた様子などなかったですか?」 「別に、前と同じような感じだったけど」 「何か、変わった事をおっしゃったり、珍しいものを持って来られたりしませんでしたか?」 「ううん。手ぶらで来て、お母さんとお話して帰っただけだよ」 「そうですか……」 「変な西御寺君」 「は?」 「今まで先輩のことなんか、気にかけたそぶりもなかったのに。西御寺君が話題にするのは、三四郎先輩だけだったじゃない」 「ははは。懐かしい人が見えられたと聞いたら、誰でも好奇心というものが、湧いてきますよ」 「そうぉ?」 花束を抱えたまま、唯は訝しげな視線を西御寺に向ける。 「いや、すっかりお時間をとらせてしまって、申し訳ありません」 「そんなことないよ。西御寺君が来てから、2、3分しか経ってないし」 「美しい方に割いて頂く時間としては、十分な時間です」 「やだ……」 また頬を赤らめる唯。お世辞だとわかっていても、嬉しくなるのが、乙女心というものなのだろうか。 「それでは、また学校で」 「うん。お花、ありがとうね」 「いえいえ。ほんの安物ですから……それでは」 「じゃあね」 ゆっくりと西御寺は立ち去っていく。しばらくその姿を見ていた唯は、小首を傾げながら、呟いた。 「いつもなら、お兄ちゃんのことを真っ先に聞くのに……なんか変な感じ」 唯は、肩をすくめると、花束に目をやった。 「それにしても、黒バラなんて趣味悪〜い。やっぱ、どっか変なんだよね、西御寺君って」 もう西御寺の姿は見えない。やれやれと言った風に首を振った唯は、ドアを閉めた。その西御寺は、『憩』の少し先の角を曲がったところで立ち止まっていた。 「単なる偶然か……ふふん。あいつのことだから、とぼけているだけなのかも知れないがな……」 低い声で呟く。微かなその声には、冷え冷えとした響きがある。 「だが、いずれにしても、まだ誰も覚醒させていないようだな。その分、こちらに分があるわけだ」 そう言って、彼は、やはり低い声で笑った。 「今回は、先手を打たせてもらうよ」 風が強く通り過ぎ、木々の騒ぐ音がした。 桜の花が揺れてるわ……読んでいた本から目を上げ、校庭を見た友美は、不図そんなことを思った。春休みだと言うのに、やはり学校の図書館に来ている。 「昨日のアレは、何だったのかしら……」 ぼんやりと、あの不思議な体験を思い起こす。 「何か思い出しそうなんだけどなあ……」 その時、ふと傍らに人が立つ気配がし、友美は顔を向けた。 「やあ。くくく」 「あら、長岡君」 友美は、芳樹が苦手である。いや、はっきり言って、嫌いなタイプである。普段は口もきかない。 「君も見かけによらないねえ」 「は?」 いきなり芳樹が訳のわからない事を言い出したので、友美は面食らっていた。 「まさか、君がそうだったとは思わなかったよ。くく」 「一体何の事?」 「とぼけなくても良いよ。もうわかってるんだから」 「何もとぼけてなんかいないわよ。ちゃんと説明してくれないとわからないじゃない」 「くくく。じゃあ、そういうことにしておこうか」 あからさまに不審な顔をして見せるが、通じないらしい。 「それで、あれかい。今度もボクとやりあう気かい?」 「長岡君と何をやりあうのよ?」 「芳樹!」 その声を聞いて、芳樹は体をびくっと震わせた。見ると、髪を腰まで伸ばした大柄な少女が大股で近づいてくる。 「南川さん」 「芳樹、手前、こんなところで何やってやがんだ」 「い、いや。別に……」 「ちょっと来な」 「か、勘弁してくれよ」 「いいから、来な!」 「は……はい……」 びくびくする芳樹を尻目に、南川と呼ばれた少女は、友美にきつい視線を向けながらぶっきらぼうに言った。 「悪かったな。こいつが変なことを言って」 「洋子ちゃんが謝る事はないわ」 「なに、この事は私にも関係のある事だからな」 「じゃあ、知ってるのね。さっき、長岡君が言ってたことって何の事?」 「それは言えないね。ほら、芳樹! 行くぜ!」 そう言い残すと、芳樹を追い立てるように、洋子は図書室から出ていった。 「一体、何なのかしら……」 また、やりあう? またってどういうことかしら? 今まで、ロクに口をきいた事もなかったのに? 「友美、お待たせ」 「あ、いずみちゃん」 「どうしたんだ? 眉間に皺寄せたりして」 「それがね、今、長岡君が来て……」 先程の会話をかいつまんでいずみに聞かせると、いずみも難しい顔になった。 「洋子なら、さっき弓道場で会ったぜ」 「弓道場で?」 「ああ。じっと私のことを見てるから、何か用かって聞いたんだけどな、別にって言って、どっか行っちまったけど」 「長岡君といい、洋子ちゃんといい、何かあるのかしら?」 「さあな。ま、変態芳樹には気をつけた方がいいけどさ。あいつのことだから、また何か、やらしい写真でも撮られるかも知れないぜ」 「やめてよ、いずみちゃん。気持ち悪い」 「ははは。まあ、気にすることはないよ。じゃ、帰ろうか」 「そうね」 「可憐ちゃん、お疲れ〜」 「お疲れ様〜」 歌番組の収録が終わり、控え室に戻る可憐に、ひかりが話し掛ける。 「今日のスケジュールは、これで終わりよ」 「え? 雑誌の取材は?」 「来週にしてもらったわ。この間の件もあるし、しばらくは、スケジュールに余裕を持たせた方がいいって、社長も言ってたから」 「もう大丈夫よ。あれから別に何ともないし」 「いいの、いいの。たまには早く帰って、のんびりしなさい」 「ふふ。サンキュー、ひかりさん」 ちょうど、控え室に入ろうとしたとき、廊下に立っていた女の子が声をかけた。 「あの、舞島 可憐さん……ですよね?」 「はい? そうですけど」 「あら、ファンの方? 悪いけど、可憐ちゃんは急いでるから……」 ひかりがそう言いかけると、その女性は、悠然と微笑んで、可憐に告げた。 「またお手合わせ願えるのね。楽しみにしてるわ」 「え?」 「ふふ……じゃあ」 「あなた、お名前は?」 「仁科 くるみ……ふふ、またね、可憐ちゃん」 そして、足早にその場から立ち去っていった。 「どうやってここまで入ってきたのかしら? どう見ても関係者には見えないし」 「………」 可憐は無言だった。またお手合わせ願える? また? どういうことかしら? 今まで会った事もないのに? それとも…… 「可憐ちゃん?」 「え?……何? ひかりさん?」 「どうしたの? ぼんやりして。早く着替えなさい。車で送っていくわ」 「うん……」 あの時以来、何かを思い出しそうで、それが喉元まで出掛かっている。でも、何かが邪魔して、それが出てこない。その上、何とも言い難い、暗い予感が、可憐を悩ませていた。何かが始まる……それも、良くないことが……ああ! もう少しでそれが何なのかわかりそうなのに! 「可憐ちゃん、明日は始業式だったわね」 「え? うん」 「2時になったら、学校に迎えに行きますからね」 「はい」 そうだった。明日は、久しぶりに学校に行けるんだ。家に帰ったら、制服にアイロンをかけておかなくちゃ。いつもなら、それだけで、うきうきするはずなのに、どういう訳か、今はあまり嬉しくない。頭のどこかで、何かが囁く。アシタハイエニイロ………ガッコウニハイクナ…… 「ううん、気のせいよ」 「え? 何が?」 「あ……何でもないの。じゃあ、すぐに着替えるから」 「ええ……」 妙なことを聞いたというような顔をして、ひかりは可憐を見た。やっぱり、疲れてるのね。でも、今の波に乗って、ここでもうワンステップ上にあがっておかないと、単なるアイドルで終わっちゃうし。今が頑張り所だからね、可憐ちゃん。 「お待たせ、ひかりさん……どうしたの?」 「何でもないわ。大変だけど、今が大切な時だから、頑張ってね」 「まかしといて」 可憐はそう言って、ずっと感じている暗い予感を吹き飛ばそうと、無理に笑って見せた。 白蛇ヶ池公園。既に日は落ち、辺りは闇に包まれている。わずかな月明かりが、池を照らしている。淳は、ベンチに座り、静かに瞑想しながら「彼」がやって来るのを待っていた。 何度も繰り返された出会い。何度も繰り返された戦い。何度も繰り返された悲劇。いくらそれが宿命とはいえ、もう終わりにすべきではないのか? 本来、これはプリンセスとアーリマンにしか関係のない戦いだ。それが、いつの頃からか、ガーディアンが集められ、使徒が戦いを代行するようになり、ただそこにいたからという理由だけで、多くの命が巻き込まれるようになってしまった。こんなことは、終わりにすべきだ。そう、今度こそ…… 「ここにおったんか」 REMの声がした。淳は、振り向きもせずに答えた。 「待ってたよ」 「俺が来んのが、わかってたんか?」 「ああ」 静かに風が吹き過ぎる。池の表面にわずかに波がたつ。 「お前は何者や。なんで桜子ちゃんに会いに来た」 「わからんか?」 ゆっくりと、REMを見据える淳。その穏やかな目には、懐かしさがこもる。 「返答次第では、この世から消えてもらうで」 「……1次ブロックが外れただけか」 「なに?」 「本当に俺がわからんか?」 「わかるかい。どう考えても初対面や。八十八学園には知り合いなんぞ、おらんしな」 「そうか。やはり完全覚醒には至ってないか」 「さあ、答えてもらおか」 REMが、淳ににじり寄る。淳は、と言えば、また池を見ている。 「いずれわかることだ」 「いずれ?」 「嫌でも思い出す。それまでは、桜子ちゃんと京子ちゃんを見守っていてやれ」 「な、なんで、お前が京子ちゃんのことを知っとんねん!」 REMの顔色が変わる。と同時に、REMの手に光が急速に集まり、閃光を放ちながら、ボール状のエネルギー体となった。 「それも、いずれわかることだ」 「ぬかせ!」 REMが、エネルギー体を、淳に向かって放つ。淳は、わずかに顔をそらして、それをやり過ごす。エネルギー体は、そのまま池の表面に当り、轟音と共に、巨大な水柱が立った。 「今ので威力は充分わかったやろ。今度はお前の頭や」 「やれやれ。本当に変わってないな」 「なに!?」 一瞬、淳の姿が消える。と、REMの頭上に姿が現れ、額に人差し指を押し付けた。 「なにを!……」 『光の真名を持つものよ。時は満ちたり。汝の姿を思い出せ』 「な!」 REMが慌てて、指を振り払おうとすると、既にそこに淳の姿はなく、池の上に、腕組みをして浮かんでいた。 「おまえは!……」 「《光》と《闇》の戦いは近い。それまで待つことだ」 「《光》と《闇》のことを知っとるとは、やっぱりただもんやないな!」 「封印解除プロセスのトリガーが甘いな。能力と記憶の両方が、一度に取り戻されて、フラッシュバックすることを恐れたのだろうが、封印解除が多段階になっているのも感心しない」 「な、なんのことや!」 「第1使徒と言えども、2000年前の戦いは、相当こたえたようだな」 「2000年前?! なんや、それは!」 淳は、池の上に浮かびながら、肩をすくめて見せた。 「だから、いずれわかると言っただろう。今は、君にできること、能力を使って、桜子ちゃんと京子ちゃんを守ることに徹していろ」 「言われんでも、ちゃんとやるわい!」 「結構。君の封印解除が、どこまで進んでいるのか、気になってここで待っていたが、第一にやるべきことは、思い出しているようで、安心したよ」 「どうあっても言わんつもりか」 「別に、今知ったところで、無駄になるだけだからな」 「なんでや!」 「解除プロセスは、順調に進行してるから、早晩、君も全てを思い出す。今、知ったところで、君には理解もできんし、何の判断の材料にもならない」 「………得体の知れん奴や。敵なんか、味方なんかもわからん」 「確かにな」 どことなく寂しげに、ふっと淳が笑った。 「では、知りたい事はわかったし、これで失礼するよ」 「待て! わいはまだ聞きたいことがある!」 再び、REMの手に光が集まる。 「そいつをくらうのは、御免被りたいね」 「なら、言ってもらおうか」 「しつこいな……ま、気持ちはわかるがね」 「ええ加減に、さっさと喋るこっちゃ」 「まだ駄目だよ」 「ほな、消えてまえ!」 REMの手から、光が発射され、空中で爆発を起こす。 『相手を間違えるな。くれぐれも彼女たちを頼んだぞ、エミュイエル』 淳の声が宙に響く。だが、その姿はいずこかへ消えていた。 「エミュイエル?……」 相手を取り逃がしてしまった事など、すっかり忘れ、REMは、その名前に、なぜか聞き覚えがあることに、驚いていた。 |