『概説 千の昼と千の夜』
written by 古酒
この世の初めよりあるもの、それは光であり、闇である。
光があるところにはそれと同じだけの闇があり、闇があるところにはそれと同
じだけの闇があるのである。
人は光が善であり、闇が悪であるという。しかしそれは正しいものの見方では
ない。人は光に安心感を覚え、闇に恐怖や不安を覚える。そしてそれを善悪に置
き換えているのである。
光と闇を善悪に置き換えるとすれば、それはその平衡が失われたときであろう。
闇が増えすぎれば、それは悪と置き換えられ、光が増えすぎれば、それもまた悪
に置き換えられるのだ。
R.Hinase 【創世の概論】より抜粋
§ § §
「あんたの負けだよ、仲間を信用せず次々と切り捨てる。そんなやり方がいつ
までも通用するわけがない」
龍之介が剣の先を向ける。しかし男の目にあきらめの光なかった。
「まだだ、俺が負けるわけがない。俺が正しいんだ。」
§ § §
「もうやめて!」
真っ白の貫頭衣に身を包んだ少女が叫ぶ。
「完全な善なんてないのよ、たとえ善いことでもそれが過ぎれば悪になること
もあるわ、完全な善人も完全な悪人もいないの!」
聞いていた男がにやにやと笑いながらそれに答える。
「おやおや神官長の桜子様とは思えない言動ですね、何があなたにそう言わせ
るのでしょうね」
§ § §
「へえ、あの拓朗がねぇ…どっかその辺の迷宮で罠にかかってたりしてね」
さとみがちゃかすように言う。
「もう、そんなこと言うもんじゃないわよ。さ、いきましょ」
「舞ちゃんの言う通りだな、ま、なんにしろ追わないとならんだろう」
「ふぅ、そうね、じゃちょっと待ってて」
§ § §
「あんたが龍之介かい、俺拓朗って言うんだけどちょっと話があるんだ」
§ § §
「あんたなんか絶対に許さないんだから」
唯がその男を指さす。
「唯さんこれを」
投げられた剣を唯が受け取る。その受け取った動作のまま剣を抜く。次の瞬
間には細身の白銀の剣を構えた唯の姿がそこにあった。
「くくっ、そんなひ弱な剣で僕を倒すつもりですか、不可能ですね」
§ § §
「さあ、可憐、我が神のために殉じなさい。完全な善なる世界のために」
男は両手を広げて叫んでいる。
「はい…」
そう答えた可憐の目に生気はなく、まるで操り人形のようだった。
「ねぇ、やばいんじゃないか」
「そうね、でも私たち二人だけじゃどうしようもないわ」
§ § §
「じいさん、ほんとにこっちで良いのか」
「ひょひょ、当たり前じゃ儂を信じんか」
「全く、なんでこの私が…」
§ § §
「終わったのか」
龍之介が呟く。その場は既に静寂に包まれていた、隣にいる拓朗が何かの装置
をいじっている。
「そのようだな、これでまたもと通りって訳だ」
拓朗が肩をすくめて言う。
「ま、昔通りって訳じゃないけどな、じゃ、戻るか」
§ § §
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