幸福の場所 #3
<Moonlight Pray>
story by くだから
期末テストも終わり、後は夏休みを迎えるだけの7月。
いつもは自由に打てるテニスコートには人があふれていた。
水曜日ならわかる、しかし今日で3日連続でこんな状況だった。
「一体どうしちゃったんだろ・・・」
誰に聞くでもなくぼやいてみる。
「ホント、どういうことだろう」
何時の間にかひろが隣に来てたようだ。
「あーあテニス部ってこんなにいたんだな。これじゃ全然自由に打てないよ」
「まあテニス部の人達に文句は言えないしな」
ひろとフェンスによっかかって喋ってる。
今日はもう帰っちゃおうかな?
そんな事を考えてると
「おーい和紫、ひろ。こんなとこにおったんかい」
一哉だ。
一哉は進路指導があったんで先に来てたんだ。
「相変わらずの人数やな、まあそれもしゃあないか」
え?
「いやー俺テニス部入ってほんま良かったわ」
一人で喋ってるぞ。
「よし、和紫、ひろ早速練習や」
俺がボーっとしてると
「ちょっと待て一哉。この人数じゃ自由に練習出来ないよ。それよりお前この
人数のわけ知ってるのか?」
「あ、なんや、とっとと練習せんのか?」
さすが一哉、人の話を聞いてない。
「だから、この人数の理由を知ってるのか?」
「ああ、この人数の理由?後で教えるさかい取り敢えず練習や」
俺とひろは顔を見合わせ一哉の後に付いて行った。
いつもの帰り道、俺とひろが自転車をひき一哉が歩いている。
「なあ一哉、コートにあんなに人がいた理由を早く教えてよ」
ひろが我慢できないように聞く
「ああ教えたる。よーく聞けよ」
一哉が教えてくれたのはテニス部の夏合宿についてだった。
「えー!ホントかよ?」
ひろが興奮している。
「ホンマや。男子テニス部の内うまい奴4人は女子と合同合宿や」
それであんなに人が来てたのか。
けど合宿前になって来るなんて皆げんきんだなぁ。
「そやからあんなに人が来てたんや」
ひろと一哉は妙に盛り上がってる。
まだ行けるって決まったわけじゃないのにね。
「これから練習がんばるんやー」
・・・・・やれやれ。
それから一哉の猛練習が始まった。
授業が終わるとすぐ俺かひろの所に行きコートへ連れていくのだった。
おかげで全然他の人と打てなかった。
そしてその日が来た。
男子部員約40人、トーナメントを行いベスト4まで勝ち残ればいいわけだ。
審判を女子部員に頼み試合は始まった。
俺の一回戦は2年生の先輩だった。
ひろと一哉以外の人と打つのは久しぶりなんで、ちょっと感覚が変だった。
そのせいか最初の2ゲームを落としてしまった。
まあその後調子を取り戻し6ゲーム連取して初戦をかざった。
ひろも無難に勝ったようだ。
さて一哉は・・・おおっ、頑張ってる。
サーブもボレーも変だけどフォアが決まっていた。
初心者だったのでぽかが多いがそれでも一哉は勝利した。
3人揃って勝つ事ができた。やっぱ嬉しいよね。
続いて二回戦、俺とひろは相手にも恵まれ楽勝だった。
しかし一哉の相手は・・・
「ゲーム&セットマッチ 谷村 スコアイズ シックスラブ」
あーあストレート負けか。
しょうがないよ相手は谷村主将だもん。
けど最後まで諦めなかった一哉は立派だったよ。
目的は女の子だったかもしれないけど、テニスも好きになれたんじゃないかな?
さて次はいよいよベスト4をかけた戦いだ。
コートも4面に減り女子部員の応援の声も聞こえる。
よし、気合を入れていこう!
って思ったのもつかの間、全然楽勝だった。
こんな簡単に決まっていいのかな?
まあ普段そんなに来ない人が強いってのも悲しいんだけど。
ひろもそんな感じだったようだ。
残りの2人は主将と副主将だった、さすが。
もう4人は決まったけど試合は続く。
次は準決勝、俺の相手は副主将だ。
さすがに楽勝とはいかなかったが、それでもあせるような事もなかった。
おいおい、ちょっと不安になるぞ。
一方ひろと主将の試合も早かった。
やはり主将は強いようだ。残念ながらひろは負けてしまった。
「ふーやっぱ強いわ」
ひろはそう言って顔を洗いにいった。
さあ最後の試合、決勝だ。
相手はひろを簡単にくだした谷村主将、思いっ切りやってやる。
コートは一面になりみんなの注目が集まる。
そして見つけた。
ちはるさんだ。今まで他のコートにいたのか、気付かなかったけど一面になった
いまは見つける事が出来た。
暑い夏だけど白いウィンドブレーカーを着ている。
黒い長い髪が良く映えた。
試合前だけどしばし見とれてしまった。
ボーとしている俺とちはるさんの目があってしまった。
ちはるさんは笑って「頑張れ」って言ってくれたみたいだ。
・・・・綺麗だ。
おっといけない、試合の事をすっかり忘れてた。
相手は強敵だ、油断してたら勝てないんだ。
「1セット タイブレイクマッチ 草薙サービング プレイ」
拍手が湧き起こり試合が始まった。
「よしっ!」
思わず声がでる。
今のポイントでゲームカウント4to3、追いついた。
90秒間のレストタイム。
コートの横のベンチに座り目を閉じる。
さすがに主将は強い、でもひろや一哉が応援してくれる。
ちはるさんも応援してくれる。
無様な試合は出来ない。
「タイム!」
主審の声で目をあけコートに向かう。
それぞれに応援が飛ぶ。
ちはるさんの方をむく。笑顔で応援してくれている。
こんな時ながら綺麗だなと思ってしまう自分が面白くもあり、まだ余裕があると自
分言い聞かせた。
そして
「ゲーム谷村 ゲームカウント シックスオール タイブレイク イン」
・・・・くっそー、このゲームをブレイク出来れば勝ちだったのに。
タイブレイクか、あと少しだ。
最後の気力をふりしぼった。
だが体は言う事をきかなかった。
練習不足は結果にそのまま出る。
「ゲーム&セットマッチ 谷村 スコア イズ セブン シックス」
ああ負けてしまった。
ネットごしに主将と握手する。拍手がおこる。
主将がなにか言ったようだ。
けど周りの歓声も主将の声も耳に入らなかった。
練習不足だという事はわかってる、主将が強いのもわかる。
でも悔しかった、それがちはるさんが見ていたからという事には気付かなかった。
ただその時は、ちはるさんの「良くやったよ」って言葉が妙に心苦しかった。
主将には負けたけど、俺は夏合宿を女子と合同で行う事になった。
「ラスト一本お願いします!」
ボールを2回つき、構えをとる。
放物線を描くボールをほぼ頂点でたたく。
そのままネットへダッシュし、リターンに備えステップを踏む。
「シュッ」
微かに聞こえる気合の様な声と共にちはるさんがラケットをふりぬく。
打ち出されたボールは正確に俺の足元をつく。
腰を落としてボレーをした俺の打球はネットにあたり、そしてこちら側にポトリと
落ちた。
「ありがとうございました」
そう言ってラケットを両手で持ち胸の前で掲げる。
これで今日の練習は終わりだった。
あの試合以来、俺達4人は毎日のように女子と練習していた。
合同合宿に行く者はそれまでも練習に付き合うしきたりだったのだ。
おかげで夏休み一日も遊びに行ってない。
元々女子は強豪だし、そんな人達のレベルアップの為に俺達と練習するわけだから
男4人は練習中休む暇なんて殆どない。
はっきり言って副主将より強い子も何人かいた。
ひろも、試合したらどうだろう?って位強い子もいる。
男女の体格差を考えると凄いレベルだった。
特にちはるさんは凄い。
彼女の両手打ちフォアの威力は男の打球と比べてなんら遜色ないものだった。
そして良く走る。
両手打ちの為、素早い動きが要求される。
体力もかなりのもんだろう。
日本選手権ベスト8は伊達じゃなかった。
「今日もきつかったな」
「ホント、なんか俺達奴隷みたいだよ」
「女の子達の?」
「そっ」
着替えながらひろと喋る、何日くらい続けてるんだろう?
まあ俺はちはるさんと打てるし、それに・・・
「さあ、帰ろうぜ」
「ああ」
部室を出るともう女の子達は着替え終わってジュースなんかのんでる。
主将曰く「特典その1」がこれなのだ。
日が落ちるまで練習するので、家の方向が同じ人達は一緒に帰るよう学校から言わ
れていた。
んで俺達男どもはボディーガードもどき。
沢山の女の子達と一緒に帰れるのだった。
主将達に挨拶して、俺とひろは8人位の女の子と家に向かい歩きだした。
「草薙君のフォアって凄いよね」
「そうかなぁ?」
「うん、凄い、凄い。ねぇ?」
周りの子からも賛同の声が聞こえる。
この状況に慣れてきたとはいえやっぱ照れる。
俺はそれが顔に出ないからいいけど、ひろはすぐ顔にでるからなー。
ほら今もボレー巧いよねって言われて照れてるよ。
また顔にでるもんで女の子達にかわいいなんていわれるんだ。
でまた照れるんだよな。
そんな世間話をして歩いていくと、途中でひろと別れるとこまできてた。
本当は俺と同じ道なのに、こっちの方の女の子が多いのでひろはちょっと遠回り
して帰るのだった。
まあ女の子4人に頼まれては断れまい。
そして俺は女の子と2人きりになる。
俺の家と同じ方向はちはるさん一人だった。
「今日もつかれたわね」
「ええ、つかれました。とっても」
ちはるさんが笑う。
綺麗な黒い長い髪と、ちょっと大人びた横顔が俺の動悸を早くさせる。
普段はやっぱりテニスの話題が多いけど、
「ねえ、草薙君ってAYA聴く?」
「AYAですか?シングルは持ってるけどアルバム聴いた事はないです。
まあいつか買おうと思ってますけど」
「そうなんだ。じゃあ貸してあげよっか?」
「えっ、いいんですか」
「うん、貸したげる。今度の部活の時に持って来るね」
「嬉しいです」
勿論CDが聴ける事より、ちはるさんに借りれる事がうれしいのだ。
「ははっ、気に入ったらコンサートでも一緒に行こうね」
「ホントですか?」
ついつい真顔できいてしまった。
ちはるさんは笑って
「草薙君が気に入ったらね」
もうなにがあろうと気に入るだろう、うん。
「それじゃ草薙君、また部活で。おやすみなさい」
「あっと、おやすみなさい、ちはるさん」
いつのまにかちはるさんの家に着いていた。
俺は浮かれまくって家に帰っていった。
「ひろも寝坊するなよ。じゃあな、おやすみ」
俺は電話を切り部屋を見回す。大きなスポーツバッグが荷物で膨れ上がってる。
いよいよ明日から合同合宿が始まるのだった。
今までの学校の練習も充分厳しかったが、さらに厳しくなるんだろうな。
そんなネガティブな事を考えるともう寝たくなってしまう。
俺はベッドに倒れ込んだ。
そう簡単には寝れるわけもなく、俺はちはるさんの事を考えてみる。
ちはるさんは憧れだった。
自分と一つしか年が違わないのに凄い事が出来る人だって尊敬してた。
今はそんな人と毎日お喋りが出来る関係になった。
そして憧れという思いは、ちはるさんに異性を意識した時好きという思いに変わっ
たのかも知れなかった。
ちはるさんに借りたCDのジャケットを眺めてみる。
それだけで何か満たされた物を感じる。
今、僕がちはるさんに感じてるものは「憧れ」それとも「好意」?
やがて俺の意識は闇に吸い込まれていった。
「おはようございます」
先負町駅前にはもうほとんどの部員が来ていた。
ここからバスで2時間ほどの所へ向かうのだ。
2台のバスにわかれて乗って行く。
バスの中でレベルわけが発表された。
ちはるさんをはじめとした、秋季大会のレギュラー候補がA。
テニス経験者がB。
この春からテニスを始めた人達がC。
俺達はというと、俺と主将がAでひろと副主将がB。
どっちにしろ男どもは忙しいわけだが。
バスの中ではMD聴いて寝てた。
昨日あれだけ早く寝たにもかかわらず眠くなってしまったのだ。
ひろは女の子とお喋りしてたみたいだった。
そして着いた。
重い荷物を皆で運び、部屋割りを決める。
昼食を食べ早速練習が始まった・・・。
「き、きつかった・・・」
練習を終えコートからの帰り道、主将とボールを運んでる。
「まあな、草薙は初めてだしな。俺なんかもう3回目だから慣れちゃってるよ」
「そうなんですか」
さすが主将、一年の時からずっと男子のトップ4だったんだ。
「けど草薙うまいよ、テニスどれくらいやってんだ?」
「えっと今年で10年目です」
普通こういう事は入部時に話してるものだが、この部活はちょっと普通じゃない。
「10年か、うまいわけだよ」
主将が納得したように頷く。
言葉にしてみると実感する。
テニスをはじめてもう10年もの時間が経過したんだ・・。
疲れてなかなか食べれない夕食を無理矢理押し込み、風呂に入る。
部屋に戻ると気持ち良い風が入ってくる。
外へ散歩に出た。
空がとても綺麗だった。
満月が美しい。
なんとなく感傷的な気分になる。
思い浮かぶのは家の事。
母様や妹は元気だろうか?
自分勝手な俺を理解してくれた母様と妹、今何をしてるのだろう。
不意にこみあげてくるものがあった。
生活が忙しくて今まで寂しさなんて感じなかった。
それなのに今はとても寂しかった。
どうしたんだろう・・・。
「なにしてるの草薙君?」
はっと感覚が現実に戻り振り返る。
ちはるさんだ。
「いえ、散歩してたんです。月が綺麗だったから」
しどろもどろに答える。
「そうだね、本当に綺麗だね」
そう言って俺の横に並ぶ。
月明かりに照らされた横顔は、いつもより大人に見えとても綺麗だった。
長い綺麗な髪からはシャンプーのいい香りがする。
いつもの俺なら見とれていただけかもしれなかった。
けれどちはるさんに母様の姿を重ねてしまった時俺は・・・・泣き出していた。
「ちょ、ちょっと草薙君どうしたの?」
ちはるさんは驚いてる。
何でもないですとすら言葉にならない。
後から後へと涙がでてきた。
ちはるさんはしばらく戸惑った後、俺の肩にそっと手を置いた。
俺はその手に自分の手を重ねて顔を見られない様に、泣いた。
時間にすれば一分かそこらだろうけど、とても長い間泣いていた気がした。
やっと落ち着いた俺を、ちはるさんは優しく微笑んで見つめていてくれた。
何故泣いたか聞いてこなかった。
俺の憧れていた女性は、俺よりもずっと大人だった。
「すっきりした?」
ちはるさんが口にしたのはその一言だけだった。
「・・・はい・・・・恥ずかしい所見せちゃいました」
ちはるさんは大きく頷くと、何も言わず自分の部屋へ戻って行った。
その後ろ姿が見えなくなってから、俺も自分の部屋へと歩き出した。
体は疲れきっていたのか、布団にもぐるとすぐに眠りについてしまった。
厳しい練習が続いた。
ちはるさんはあれからも何も聞いてくる事はなかった。
わけを話したほうがいいかなとも思ったけど、そんな余裕は無くなってきていた。
今年の女子の目標は全国制覇。
団体戦だからちはるさん一人強いだけじゃ勝ち残れない。
またちはるさんも確実に勝たなくてはならないプレッシャーがある。
克服するには練習するしかない。
俺達も必死な女子に引っ張られる様に厳しい練習を続けた。
そしてとうとう最終日の練習。
今日は仕上げの意味でもある試合が行われた。
レギュラー決定の大きな参考になる試合だけに、かなり気合の入ったものだった。
そんな中でやはりちはるさんは凄かった。
誰にも負ける事なく、さらにその後俺と主将とも試合をして勝ったのである。
身近な人になったけど、やはり凄い人だという事を思い出させる出来事だった。
皆の感嘆の声と共に練習は終了した。
「乾杯!!」
グラスが打ち合わせられる。
つらかった合宿の打ち上げが始まった。
「特典その2」の始まりでもあった。
何故かというと先生公認でお酒が飲めるのである。
女の子達も飲むから、なんていうか気が大きくなってる。
だからまあ、色々と楽しいのである。
主将なんか慣れたもんですでに膝枕してもらってる。
ひろが赤くなってるのはアルコールのせいだけじゃないだろう。
しかし強豪とはいえよく先生が許すな。
ホントこの学校の部活は変わってる。
俺もちょっとは楽しい思いをして、酔いを覚まそうと一人で外へでた。
相変わらず空は綺麗だった。
このまえよりちょっと月は欠けていた。
ふと母様が言っていた言葉を思い出した。
「お月様はね、楽しい事も悲しい事も全部映してくれるの。だから楽しい事、悲しい事
があったら月を見上げるの。和紫に楽しい事、悲しい事があった日は月が教えてくれ
るのよ。楽しみも悲しみも、いつも和紫と分かち合えるの。覚えていてね、あなたは
決して一人じゃないという事を・・・」
この前泣いてから一週間も経ってはいなかった。
けれど母様を思い出す心は全然違っていた。
月を見上げると笑顔になった。
伝わりますか、母様?
月はとても綺麗です。
僕は少しだけ大人になれたみたいです。
それは多分、好きな人が出来たから・・・。
「なにしてるの草薙君?」
この前と同じ声、俺は振り向く
「月を見てました。それに酔いを覚まそうと思って」
同じ様な答え。
けれどもちはるさんは嬉しそうに頷いた。
「うん。綺麗な月だね」
そう呟く。
それきりしばらく二人とも口を開かなかった。
二人共月を見ていた。
ちはるさんを見た。
ほんのり染まった頬が綺麗だった。
相変わらず大人っぽく見える横顔。
微かな風で揺れる長い髪。
その体つきからは信じられない程の威力のボールを打ち出す細い腕や足。
そしてなにより優しさをたたえた目が美しかった。
俺はちはるさんに恋をしていたんだ・・・。
「ちはるさん」
「なに?」
微笑みながら俺の顔を見る。
視線が合う。
「ちはるさん、好きです」
信じられないけどすんなりと言葉がでた。
ちはるさんは微笑んだまま
「酔っているの?」
「酔っては・・・酔ってるかもしれないけど本心です」
ちはるさんは微笑んだままだった。
どれくらい経ったんだろう、ちはるさんが口を開いた。
「草薙君」
「はい」
「私も草薙君の事をずっとね」
そこで口を閉ざす。
「ずっとなんですか?」
ちはるさんは微笑んだままだった。
俺も微笑んでいた。
ちはるさんがゆっくり目を閉じていく。
不思議と緊張はしなかった。
ゆっくり唇と唇が近づいていった。
そして・・・
「あれー、佐久間しぇんぱいと草薙君なにやっれるのー?」
突然声をかけられ驚いて振り向く。
さりげなくちはるさんから離れる。
「こらっ、馬鹿、邪魔をするな」
谷村主将だ。
主将は酔っ払った子を引っ張っていく。
こっちを向いて両手を顔の前であわせる。
女の子と主将はあっという間に消えていった。
ちはるさんと顔を合わせる。
どんどん笑顔がひろがってくる。
とうとう二人して声をだして笑い出した。
笑いがおさまると
「和紫君、私達も戻りましょう?」
「うん戻ろうか」
ちはるさんが歩き出す。
耳が赤くなってる。
名前で呼ばれた事に気付かないふりをして、俺はちはるさんの横を歩いていった。
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