【光の真名】プロローグ

An Episode in The Known Worlds' Saga ---《 The Soldier 》外伝

【光の真名】 ひかり　　の　　　ま　　　な　
予告編

Opening Theme　「ゆずれない願い」　田村直美

　《光》と《闇》の意志は、果てしない戦いを繰り広げる。それは、宇宙創世の時に定められた宿命。悠久の時を戦いに費やし、様々な世界を作り出すための課題。宇宙が終わりを告げるまで休むことなく続けられる定め。誰もが諦め、受け入れていた運命に、他ならぬ「彼」が一石を投じた…………

　今、２０００年の時を経て、再び「戦い」が始まろうとしている。静かに、徐々に勢いを増しながら、全宇宙を巻き込む激しさにまでに至る「戦い」が。

「なに、この世から消えていただくだけですよ」

　《闇》の攻勢を受け、次々と目覚めさせれらるレディ・ガーディアン。彼女たちの守るべきプリンセスは、未だに覚醒しない。２０００年の時を経てもなお癒えない「傷」に悩みながらも、否応なく戦いは始まっていく。

「お兄ちゃん……唯を許してね……」

　全てを思い出し、愛するものに涙する唯。守りたくても、守れなかった戦い……今こそ、かつての悲劇を繰り返すまいと誓い、唯は戦いに赴く。

「そうだったわ……私のせいであなたは……」

　愛する二人を引き裂いてしまった後悔に囚われる友美。次は違う……次は必ずあなたたちの想いを遂げさせてみせるわ……心に決意を秘め、敵を求めて、彼女は街へ出る。

「あなた……なの？……」

　愛する人がいた。自らの存在と引き換えにしてでも、悲しみから救いたかった人が。再会の喜びと、繰り返される運命への怖れに、板挟みになるいずみ。

「あなたたちを消し去る事が、私の使命」

　全てを忘れ、かつての友を躊躇いもなく襲う京子。封印された意識が悲鳴を上げる。「力」が解き放たれ、友が倒れていく中、彼女の中で何かが壊れていく。

「いいえ、諦めないわ！必ず守ってみせる！」

　死と隣り合わせの日々。可憐は、意志の炎を目にたたえ、敵に切り込んでいく。決して引き下がらない強さが、オーラとなって体を包み込んでいく。

「『ソルジャー』！お願いです！戦って下さい！」

　遥かに次元を超えた世界での戦いで、懸命に使命を果たそうとするこずえ。だが、圧倒的に力の及ばない相手に、じりじりと劣勢に追い込まれていく。

「私は死ぬわ、必ず。でも、あなたは生き残りなさい。そして事実を伝えて」

　優しい瞳に宿る不吉な予感。だが、美沙に選択の余地はなかった。戦う事が、戦い、敵と刺し違える事だけが、彼女を安息へと導いていた。

「もうやめろ！それだけ殺せば充分だろう！」

　拳を握り締め、ＲＥＭは虚空へ叫ぶ。怒りが彼を戦いへと駆り立てる。もう、馬鹿げた争いを終わらせるために。何もかもを無へ帰すために。

「誰かが俺に語り掛けた。そうするしかないんだってね･･･」

　静かな言葉の陰に潜む、激しい情熱。龍之介が全てを思い出したとき、悲劇は幕を開けた。愛するものを救うために、彼は身を躍らせた。

「俺の責任だ。俺が手を出したばかりに…………」

　彼は、決して涙を見せない。自らの手で引き起こした事態に、決然と挑む姿だけが伺いうる全て。遥かな未来に繋がる不幸も、苦しみも、全てを胸のうちに隠して。

「光は、全てを照らし出します。眠りについているものまで……」

　事態の推移に静かに手を差し伸べる桜子。その穏やかな瞳が全てを物語っていた。

　次元暦２８５２．３４６。「それ」は始まった。多重次元構造宇宙の中で、最も科学力を持つ５つの世界－ノウン・ワールド－は、直ちに手を打った。《闇》が本格的に、攻撃を加える前に、「彼」を探し出す事。２０００年前、ノウン・ワールドを含む、全次元宇宙を襲った戦いに勝利をもたらした戦士『ソルジャー』を探し出す事を。あらゆる世界へリサーチャーが派遣され、探索が開始された。

　中央次元世界から遥か離れた龍之介たちの次元世界。《闇》は、そこで目覚めた。悪夢のような戦いが、静かに始められる。最初は決して誰にも悟られることなく《光》のものが、狙い撃ちに遭っていく。

「させるかぁ！！！」

　渾身の力を込めて、いずみの手から、「光」が放たれる。

「まだよ！まだ挫けるわけには！……」

　数千度の熱球の中で仲間を守り続ける友美の頬に、涙が流れた。

「宇宙を破滅に導くものよ！潰えろ！！」

　全身を光に包み、可憐が闇を切り裂く。愛したもののために。

「私は……私は！……」

　激しい苦悩が京子を苛む。そして、彼女は最後の選択をした……

「これでお終いにしよう。何もかも」

　悲しみを瞳に湛え、ＲＥＭは、空に昇った。限りない高みへ向かって。

「消えなさい！消えてぇ！！！」

　こずえの顔が恐怖に引きつる。もう手に負えない。私の負けなの……

「待ったわ……やっと私は解放される」

　穏やかに微笑む美沙。目の前の敵に、彼女は、その人の姿を思い浮かべていた。

「なぜ戦いをやめないのです。なぜ世界を愛さないのです！」

　桜子の叫びは届かない。「光」と「闇」は急速に収束していく。

「最後の介入を行う。もう選択肢は残されていない」

　微かな呟きとともに、彼は、前へ踏み出した。もう後戻りはできない。

「俺は、俺にできることをやるだけさ」

　龍之介は、顔を伏せたまま寂しげに言った。胸の中の決意を悟られまいとして。

「今度は……今度は、唯が助けてあげる！」

　涙が一筋、唯の瞳から零れ落ち、「闇」へ向かって落ちていった。

　なぜ俺はこんなところにいるんだ……戦いはどうなった？あの戦いは……？答えはない。誰もいないのか？唯！どこだ！いないのか？何故だ･･･何故だ！！龍之介の叫びが、誰もいない空に向かってこだまする。

「光のものよ……愛するものを守りなさい……それがあなたの務めです……」

　わかっている！だから探してるんじゃないか！どこに行ったんだ！お願いだ！　知ってるのなら、教えてくれ！

「そうではありません……そうではないのです……」

　何がだ！何がだ！愛するものが、他にどこにいると言うんだ！！

「どこにいるんだ！！」

　肩で息をしながら、龍之介はベッドから跳び起きた。夢？……どういうことだ……唯、何があったんだ……

「次元特異点、依然拡大中です！」
「座標はまだ特定できんのか！？」
「次元振動波が、計測限界を超えています！」
「何とかしろ！このままでは！我々の世界が！宇宙が！……」
「駄目です！完全に制御可能な範囲を越えました！」

　人類の力の及ぶことではないのか？やはり『ソルジャー』に頼らねば、どうしようもないのか！？

　ノウンワールドの次元観測室に失望が広がる。後は、奇跡が起きる事を待つしかないのか･･･

「なぜあなたがたは戦うのですか？」
「なぜ？……そうね……なぜかしら……」

　戦いのため荒廃し、半ばゴーストタウンと化した街の深夜。公園で、こずえと友美が語り合う。

「何万年も前から戦い続けて、それに何の意味があるんですか？」
「運命……かしらね……」
「こずえには、わかりません。何も得るものなんかないのに、理由すらわからないのに戦い続けるなんて」
「理由はあるわ」
「何ですか？」
「新たな世界のためよ」
「戦いが終わらないのに、新しい世界なんて……」

　月明かりに友美の微笑みが浮かぶ。

「戦いが終わらないからこそ……よ」

「次元震の発生を確認！」
「来たか！……」
「TERA-527 を中心に広がってます！」
「影響は！？」
「次元方位は……近くです！衝撃波が来ます！！」
「シェルターは！？」
「職員以外は、避難済みです！後１分で全経路閉鎖されます！」
「衝撃波、後２分で到達します！」
「対衝撃体勢の用意を！」
「これは！……」
「どうした！？」
「規模が計算値を大きく上回ってます！偏移プラス２０！」
「な！……」
「シェルターの対衝撃能を越えるじゃないか！」
「衝撃波到達まで、後１分３０秒！」
「シールド強化！」
「これ以上は、ジェネレーターの限界出力を越えてしまいます！」
「後で壊れようがどうしようが構わん！衝撃波が通り過ぎるまで持てば良い！」
「ジェネレーター出力、１５％上昇させます！」
「衝撃波到達まで、後１分！」
「ジェネレーター出力、５％上昇！」
「何としても間に合わせろ！」
「DQSE-666が次元崩壊を起こしはじめました！」
「構造分裂の記録は！？」
「既に開始しています！」
「衝撃波到達まで、後３０秒！」
「ジェネレーター出力、更に５％上昇！」
「急げ！」
「次元再構成が始まります！」
「ジェネレーター出力、更に３％上昇！」
「TERA系とDQSE系で、再構成が始まります！」
「規模は！？」
「２０００年前と同じです！ユニバースクラスです！」
「衝撃波、来ます！」

　《光》と《闇》の戦いはピークに達していた。プリンセスとアーリマンが、干戈を交える度に、次元構造に衝撃が走る。

『もう終わりにしませんか』
『何を寝言を！』
『では、いつ果てるともない未来まで永遠に戦いたいのですか？』
『それが我々の運命だ』
『運命……なぜそれを変えようとしないのです？』
『最終観測者の意志だからだ』
『確かにそうです。でも、なぜだからと言って私たちが戦わねばならないのです？』
『最終観測者の予測を覆すためだ！！』

　誰もいない……また行ってしまったの？唯はまた一人になったの？……

「唯……」

　そこにいるの！？お願い、返事をして！

「唯……元気で……」

　あの時と同じ……また唯は一人になるの？嫌よ！もう嫌！今度は運命を変えてみせる！だから！……

「お兄ちゃん、唯は……唯は、いつまでも一緒だよ……」

「忘れないで……光と闇があるからこそ、この宇宙が愛おしいのだということを……」

Ending Theme　「花」　石嶺聡子

今、次元宇宙を震撼させる戦いが始まる。

愛する人が、心を通わせた友が、運命に流されていく･･･

matu'ko が贈る、初のＳＦロングストーリー。(笑)

ＣＯＭＩＮＧ　ＳＯＯＮ！

《プロローグ【光と闇の幕開け】へ続く》

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