An Episode in The Known Worlds' Saga ---《 The Soldier 》 外伝


光の真名
ひかりのまな

第4章 『目覚めぬ者』

… C-Part …



「駄目か!」

 REMは舌打ちをしながら、周囲を見渡す。混沌としたイメージ。崩壊の予兆。だが京子の精神エコーの片鱗すら見つけることができない。限りなく精神の奥底に向かって進みながら、絶えず京子の名を呼ぶが、返事がない。

『私? そんなも……』

 今のは! もう1段階ダイブする。いた! かなり希薄になってはいるが、間違いなく京子の精神エコーだ。間一髪というところだな……

「京子ちゃん」
『京子? 誰? 知らない……』
「俺だ! REMだよ」
『知らない……何も知らない……』
「ちょっと強引だけど、引っ張りあげさせてもらうよ」
『いや……「外」は嫌……』
「ごめんよ」

 京子の精神エコーを包んで、表層へ向かって浮上しようとしたその時、REMは、異様なものに気付いた。

「これは……封印?」

 そこは、精神の基底部にほど近い。強固なシールド様のもので包まれた、精神エコーがそこにあった。

「それじゃ……それじゃ……最後のガーディアンとは……」

 REMがゆっくりと手を伸ばすように、「それ」に触れた。

「間違いない……じゃあ、京子ちゃんが『サライユ』だったのか……」

 なぜ淳は、教えてくれなかったんだ!?……いや、そうか、そうだな。あいつなりの配慮だったんだ……京子ちゃんを引っ張りあげたら、解除させよう……

 その瞬間だった。《闇》がREMに襲いかかった。

「うわぁぁぁああああ!!!」




「俺から話すことはこれで全部ですよ」
「そう……」

 ミサは、ため息を吐くと、顔を俯かせた。おかしい。センサーの反応は、確かに彼が『ソルジャー』だということを示してるけど、全く覚醒の気配がない。龍之介のみた夢も重要なパターンがいくつか欠けており、『力』を持つものの覚醒を根拠づけることができない。

「今度は俺から聞きたいことがあるんですけど」
「何かしら?」
「《光》だの《闇》だの、一体何なんです? こずえちゃんにも言われたけど、さっぱりわかんないんだけど」
「そう……ね……そもそもの始まりは、今から2300年前に遡るわ」
「2300年前?! ちょっと待って下さい。それって」
「この世界では、まだ文明らしきものが生まれたばかり。私権社会がすっかり定着した頃ね。一部では原始的な共同社会が残ってたようだけど」
「そんな時代に……」
「そう。この世界で考えたら、ありえない話だけど、私たちは、この世界の出身じゃないの」
「この世界じゃ……ない?」
「ええ。まだこの世界では、基礎理論さえ確立してないけど、宇宙には無数の存在平面を持った次元があって」
「パラレルワールドって奴ですか?」
「そんな小説かマンガに出てくるような単純なものじゃないわ。あなたには、理論を説明してもわからないでしょうから、かいつまんで言うわね」

 全ての物質・エネルギーの構成要素、『超ひも』の構造が解明され、宇宙が多次元構造になっていることを最初に発見したのは、現在、ERDE-035系次元世界と呼ばれている世界で、希代の天才と呼ばれた、ある科学者だった。彼女の導きだした方程式から、その存在平面を自由に行き来できる可能性が指摘され、その研究が本格的に始まったのが今から約3100年前。500年の歳月をかけて基礎理論が整備され、応用技術が確立し、次元遷移システムが完成した。様々なトラブルがあったが、多くの次元世界の中でERDE-035に文化水準が近接していた5つの次元世界で、政治・経済同盟が結ばれ、それまでに類を見ない発展がもたらされた。最初の300年は、何度か内乱や対立があったものの、総じて順調に経過した。だが、災厄はある日突然やってきた。

 《闇》の使徒、アジ・ダハーカが、ERDE-035系世界に来襲。5つの世界は、大混乱に陥った。ダハーカの攻撃の前に、在来兵器は全く用をなさず、敗退に敗退を重ねるばかりであった。そこへ「ヘリオス」と名乗る《光》の使徒が現れ、混乱に拍車がかかる。使徒同士の戦闘に介入など思いもよらず、破壊が繰り返されるのを指をくわえて見ているしかなかった。そこへ現れたのが、謎の青年だった。彼と最初にコンタクトしたのはクリステア・フロイラインというごく普通の少女だったが、彼が使徒に匹敵する能力を持つことを知り、戦闘に介入することを説得。戦闘が激化し、他の次元世界に被害が広がるに及んで、彼は戦闘に介入。それぞれの使徒を封印し、いずこかへ去った。彼女の報告で詳細を知った政府中央は、これを極秘とし、彼の予言に従って、使徒の再度の来襲に備えることとした。5つの次元世界の連合政府。通称「ノウン・ワールド」が、発足した。

 「彼」の存在は、連合政府諜報局によって徹底的に捜査されたが、杳として行方は知れず、クリステアが唯一撮影したホログラムだけが資料として残された。コードネーム『ソルジャー』。それが彼の呼び名だった。

 第2の災厄はそれから300年後、悪夢としか言いようのない事件から始まった。単純な次元振動兵器の実験。それが、ダハーカの封印を解除してしまったのである。ノウン・ワールドは、警戒態勢をとり、それまでに発見されていた全ての次元世界にコマンダーとリサーチャーを派遣した。ダハーカがどこかの次元世界に逃走したことは明らかだったからだ。コマンダーは戦闘訓練を受け、ダハーカ殲滅を任務とし、リサーチャーは、諜報訓練を受け、『ソルジャー』発見が任務とされていた。『ソルジャー』が、自己再生を重ねて、遥かな太古から生きてきたと、クリステアに語っていたことだけを頼りに、捜査命令が出されていた。300年を経ても、ノウン・ワールドの科学力では、圧倒的な使徒の攻撃力に対抗できるかどうかは不明であり、『ソルジャー』の助力が何としても必要だった。

 戦闘は、TERA-001系と呼ばれる、当時最辺境の次元世界で始まった。だが、ノウン・ワールドから派遣されていたのは、シニアステップの訓練を受けはじめて早々のリサーチャー「アミア・フロイライン」だけだった。次元遷移の際に発生する質量欠損補正可能範囲が、個体によって異なるため、他に派遣できるリサーチャーがおらず、異例の抜擢となったのだ。頼みの綱は、アミアひとりという、戦力的には絶望的な状況下で、戦闘は激しさを増していく。その過程で、彼女はレディ・ガーディアンと出会い、《光》の側に破壊の意図がないことを確かめると、戦いの回避に全力を尽くし始めた。だが、《闇》は容赦なく攻撃を加えてくる。やむを得ず反撃に出る《光》の者たち。その余波で、TERA-001系は崩壊の危機にさらされ、さらには、辺境から中央へと戦闘が波及していき、次元世界は大混乱に陥る。ここに至り、アミアは、『ソルジャー』と接触することに成功。彼を説得して、再び戦闘に介入させ、《光》と、ノウン・ワールドに勝利をもたらす。しかし、それも束の間のこと、ダハーカは、所詮、使徒にすぎず、《闇》を司るもの「アーリマン」が目覚め、戦況は一転、泥沼化していく。一方、ガーディアンたちも「プリンセス」探索に集中しはじめる。ここに至って、『ソルジャー』は《光》の使徒「ヘリオス」の封印を解除し、事態は、全面戦争の様相を呈してくる。「ヘリオス」の封印解除に引き寄せられるように、他の《光》の使徒たちも目覚め、次々と戦闘へ参入し、もはや、次元世界の崩壊は必至と見られた。その折りも折り、忽然と「プリンセス」が現れ、次元境界世界を構築し、戦いの場をそちらへ移す。そこで何があったかは現在に至るも不明である。だが、アミアもその世界へ赴き、何か重要な役割を果たしたことだけは、確認されている。そして、突然、その次元境界世界が崩壊、その余波で、WWEB系次元世界を起点として、次元崩壊が始まった。それは急速に広がり、次元震−後世、『グランド・インパクト』と呼ばれる次元構造連続体の超振動−が発生、多大な被害を出したものの、「アーリマン」は封印され、戦いは終わった。

 そして今回、その「アーリマン」の封印が破られたことを示す、次元特異点の発生が確認され、この事態となったのである。

「……まるで、SFですね……」
「そうかもね。でも話はそれだけじゃないわ。こずえちゃんからも聞いたと思うけど、私たちは、その『ソルジャー』こそ、あなただと思ってるわ」
「俺にはそんな大それた能力なんかありませんよ」
「いいえ。アミア・フロイラインが採取した『ソルジャー』の生体アストラルパターンを納めたセンサーは、あなたがそうだと、はっきりと示してるわ」
「………」
「何らかの事情があって、記憶と能力が封印されたままだけどね」
「違うよ」
「え?」
「確かに、何かとんでもないことが起こってるのは、わかる。でも、俺が、その世界を救ったとかいう『ソルジャー』だっていうことは、ありえない」
「龍之介君……」
「俺に何をしろって言うんです? 俺には何の力もない。いきなりそんなことを言われても、『はい、わかりました』って言う訳にはいかないんだ!」
「でも、あなたは」
「違う! 第一、それが事実だとしたら、唯を……」

 言葉を切り、唇を噛む龍之介。しばらく無言だったが、突然立ち上がると、ミサの方を振り向きもせずに言い捨てた。

「もう帰るよ。こずえちゃん、邪魔したな」
「待って! お願い!」

 龍之介は、ミサの言葉を無視して部屋を出ようとした。

「龍之介先輩」

 思い詰めたコズエの声。龍之介は思わず立ち止まった。

「こずえちゃん、何を言ったって答えは同じだよ。俺にはそんな力なんかない」
「先輩……これだけは忘れないで下さい」
「なんだい」
「こずえたちが負けるということは、この世界も、こずえたちの世界も、そして、何の関係もない世界まで消えてなくなるということなんです」
「それは……」
「こずえたちの力だけじゃ、駄目なんです。あれから2000年も経ってるのに、全然歯が立たないんです。《光》と《闇》の戦いに決着をつけられるのは、先輩だけなんです」
「………」

 龍之介は黙り込んだ。俺だって、そんな『力』があればって思うさ……でも、俺が世界を救った英雄? とてもじゃないが、実感はない。それに、今の俺は、唯を探すことの方が……

 いきなり、近くで轟音が轟く。窓に飛び付いたミサは、状況を視認すると、端末のコンソールを叩き、モニターの結果を確認した。

「こずえちゃん」
「はい」
「奴らだわ。出るわよ」
「はい!」
「龍之介君」
「え?」
「あなたはここにいなさい。外は危険だわ。奴らが……《闇》がまた出てきたの」
「奴ら?……奴らって、こないだの爆発騒ぎのか!?」
「そうよ。あなたの手に負える連中じゃないわ。だからここにいるのよ」

 ミサがリモコンを操作する。床の一部が開き、龍之介が見た事もないような武器が現れた。二人の体が一瞬だけ光り、龍之介が瞬きを1回する間に、バトルスーツの装着が完了していた。

「ここはシールドがかかってるから、絶対に安全よ。だから、決して外に出ないこと。いいわね?」
「しかし」
「あ、それとあっちに置いてあるものには手を触れないでよ」

 それだけ言うと、ミサは表へ駆け出していった。

「先輩。それじゃあ」

 コズエが、ちょこんと頭を下げ、ミサの後を追う。再び轟音が轟く。今度は少し遠くのようだ。

「……だったら、唯もいずれ姿を見せるはずだ……」

 龍之介はそう呟くと、部屋を出て、ミサたちの後を追った。




 REMのアストラルボディを《闇》が縛り上げ、エナジーを吸い取っていく。

「が……がぁ……!」

 必死でもがくが、《闇》はびくともしない。アストラルボディが崩壊する……急速に意識が薄れていく。

『REM……君?……』
「きょ、京子ちゃん……」

 ごめんよ……救えなかった……だけど、これだけは……REMの精神体から、強烈なエネルギーが放出される。闇を分解する光の螺旋。京子のものではない、すさまじい悲鳴が上がる。

「いやがったか……」

 だが、ここまでか……REMの精神がゆっくりと崩壊しはじめる。

『REM!』

 誰だ?……力強いシールドがREMのアストラルボディを包む。別のサイコシールドが弱った《闇》を掴み、京子の精神エコーを捉えると、表層に向かって浮上し始める。

「そうか……君か……」

 REMの意識はそこで途切れた。




 病院のアプローチに立つのも久しぶりだわ。桜子は、風になぶられる髪を柔らかく押さえると、歩きだした。風が吹くたびに桜の花が舞い散る。

「平和は終わったのね……」

 あれほど見事に咲き誇っていた桜が散っている。桜子は、ふと、昔、ERDE-035系次元世界で流行っていた歌の一節を思い出した。

 花が舞い散る時、それは旅人が歩み出す時
 花が舞い散る時、それは戦いに舞い戻る時

 あの歌を書いた人は、よくわかってたのね。桜子の瞳に、また桜の散る様が映る。

「私だけ生き残ってしまった。あの人をこの手にかけてしまった、私だけが……」

 悲しい瞳は、まだ桜が散る様子を映している。ルナイユやハノイユは……まだ悲しい瞳をしてるのかしら……ごめんなさい……こんなことは、私だけで終わらせなくちゃいけないのにね……いいえ、私だけで終わらせなくちゃ……

「杉本さん!?」

 桜子が振り返ると、内科の婦長がこちらに歩いてくる。

「先生に外出許可はとったの? いくら容体が良いからと言って……」

 桜子は微笑んだまま、婦長に向かって手を差し伸べる。

「!!」

 婦長の体が、一瞬ビクッと震えると、何事もなかったかのように回れ右して、病棟に戻っていく。

「婦長さん、ごめんなさい」

 桜子の体を光が包み、呟きだけが後に残った。




 REMの体をゲートウェイにして京子の意識下にダイブしていた淳は、REMの精神体をシールドで注意深くブロックすると、京子の精神エコーを表層にまで引き戻して固定し、《闇》を外に引きずり出した。

「ごぶっ!……」

 悲鳴ともつかない音を立てたそれは、床をのたうちまわる。淳は、サイコスピアを形作ると、止めを刺した。

「ぎゃっ!!!」

 シュウシュウと音を立てながら、「それ」は、人の形に変わってから息絶えた。

「芳樹……」

 いずみが呟く。淳は、パラサイコシールドをかけると、次元ゲートを開き、芳樹の亡骸をそこへ送りこんだ。

「先輩、一体何を?……」
「《闇》のものだからと言って、全てを滅ぼして良いというわけではないから」

 淳は、ゲートを閉じると、まだ意識を失ったままのREMに目を向けた。

「REMさんは、どうしたんですか?」

 可憐が、淳に問う。

「すぐに介入したんだけどね……間に合わなかった……」
「どういうことですか、先輩」

 友美の冷静な声が響く。

「アストラルボディが崩壊し始めている。サルベージを予期して、トラップが仕掛けてあったんだ……」
「じゃあ、芳樹君が」
「ああ。使い捨てのサイコディスポーザーにされたんだろう……」
「それって、じゃあ、REMさんは!……」

 唯が悲鳴に近い声を上げる。

「応急措置はしておいたが、いずれ……」

 沈黙が降りた。京子の光のない目が、REMをじっと見ている。

「え? 何?! この波動は!……」

 突然、いずみが叫んだ。

「あいつだ……洋子だ……」

 それを聞いた唯の顔に動揺が走った。それに気付かず、可憐が号令を下す。

「いくわよ!」
「可憐ちゃん……」
「何? 唯ちゃん」
「行かなきゃ……いけないのかな……」
「何を言ってるの! 当たり前じゃない!」
「可憐……」
「いずみちゃんまで!?」
「そうじゃないけど……戦う気なのか……?」
「当然よ。それが仕事みたいなものなのよ」
「そうだけど……」
「辛いだろうけど、行きなさい」

 淳が静かに口をはさむ。

「先輩……」
「戦わなければ、全てを失うんだよ」
「はい……」

 唯といずみが同時に答える。可憐は、他のガーディアンに向かって頷くと、テレポートした。友美、唯が続く。いずみは、淳を振り返った後、少し遅れてテレポートした。

「REM……すぐ戻ってくる……待っててくれ」

 精神を救い上げても自閉したままの京子と、意識不明のREMに、それぞれ視線を向けた後、淳もジョウントした。



 ミサがビームライフルを連射している。爆音が響き、建物が崩れていく。

「くそっ! ちょこまかと!……」

 洋子の動きは目で追うよりもはるかに早く、手動で照準を合わせているミサでは、と
てもビームを当てることなどできない。

「コズエちゃん! ロックできた?!」
「まだです!……あ、また!……」

 先程から生体アストラルパターンを同定し、コンピュータによる自動照準を可能にしようとしているのだが、洋子が次々とテレポートを繰り返すので、センサーにパターンが乗らない。

 ミサは、ビームライフルを捨てると、インパルスハンドキャノンを取り上げ、発射した。わずかに洋子をかすめ、マンション群に命中、大爆発を起こす。爆煙がはれると、先程まであったいくつものマンションがきれいさっぱりと吹き飛んでいた。

「おいおい。いくら避難した奴が多いからといって、そんなに派手にやって、大丈夫なのかよ!」

 洋子がからかうように、上空から怒鳴る。

「あんたが、おとなしくしてれば、被害なんて出ないのよ!!」
「無茶苦茶な奴だな」
「うるさい! おとなしくやられなさい!!」
「おおっと」

 再び、キャノンの散弾ビーム光が、洋子を襲う。テレポートで避けた後、パラサイコチョウカーを放った。が、にんまりと笑うミサの前で弾け飛ぶ。

「2000年もあれば、これくらいのことは何てことないのよ」
「憎たらしい奴だ」

 両腕を上に掲げ、巨大な闇の螺旋を作ると、今度は洋子がにやりと笑った。

「じゃ、これはどうだ?」

 次の瞬間、悲鳴を上げる間もなく、シールドごとミサが跳ね飛ばされる。

「ミサさん!」

 返事がない。コズエは、シールドを強化すると、ビームライフルを抱えた。

「子供は家に帰ってねんねしてな」
「黙りなさい!」

 銃口から閃光がほとばしり、ライフル弾が連続して発射される。洋子は巧みにそれを避けながら、闇の螺旋を作る。

「じゃ、そっちのねえちゃんと一緒にねんねするんだな」

 その瞬間、光の螺旋が洋子を襲わなければ、コズエは確実に息の根を止められていただろう。

「来たか!」

 洋子の目が爛々と光る。今度こそ、決着をつけてやる。可憐、友美、唯、いずみが、次々とテレポートアウトする。

「アエーシュマ。また会ったわね」
「マナイユか。しぶとい奴だぜ」
「お互いにね」

 可憐がすばやく、サイコスピアを放つ。シールドで防御しつつ、洋子もサイコスピアを放った。光の槍と闇の槍が二人の間で衝突し、閃光と熱が、一瞬のうちに辺りを焼きつくす。衝撃波で、民家の瓦が吹き飛び、壁が崩れ落ちる。

「………」

 コズエは、息を呑んで、戦いを見つめていた。可憐が果敢に攻撃を加える。いずみの攻撃は、どこか生彩に欠けてはいるが、着実だ。洋子からの攻撃は、友美と唯が、効果的に防御する。見事なコンビネーションだった。

「あの人たちと互角だったのね……アミア・フロイラインは……」

 今更ながら、自分の非力さを思い知る。レベルが違いすぎる……滲んできた涙を振り払うように携帯コンソールに飛び付くと、コズエは、洋子のアストラルパターン同定を再開した。

 光と闇の応酬が、激しさを増す。建物は吹き飛び、避難し損ねた住民が悲鳴を上げ、倒れていく。可憐の指から差し渡し5mはあろうかというサイコスピアが現れ、一瞬で洋子を襲う。シールドのパワーを上げていたものの、洋子は大きくのけぞって、後方へ跳ね飛ばされる。

「どう!? 観念したら?」
「……がふっ!……誰が……」

 ダメージを負いながらも、洋子は、反撃を試みる。闇を表象するモノリスが続々と洋子の周りに現れ、規則正しく周回を始める。

「なに? まさか!……」

 いずみが慌てて光のモノリスを産み出し始める。

「遅い!」

 闇のモノリスがエネルギーを一斉に放出する。唯と可憐が巻き込まれ、悲鳴を上げて地上へ落下する。エネルギー流は、そのまま街をなめるように走り、街を瓦礫の山に変えていった。

「あれは……ハノイユだけが使えた『力』だったはず……」

 友美が青くなって、身構える。いずみは、モノリスを周回させたまま、洋子を見つめている。

「まだまだ負けてないぜ」
「洋子……もうやめようぜ」
「寝言は寝てから言え」
「何で、私たちが戦わなくちゃならないんだ」
「は! お前がそれを言うとは思わなかったぜ。え? ガーディアンの中でも抜きんでた『力』を持つハノイユが」
「……友達だったじゃないか」
「『覚醒』する前はな。もう遅い。私は思い出してしまった。それはお前も同じじゃないか。わかってるだろう。《光》と《闇》に和解はない」
「だけどな!」
「お喋りはおしまいだ。いくぜ!」

 有無を言わさず、洋子がいずみにサイコスピアを投げ付ける。友美がシールドで、それを遮ると、いずみは、無言でモノリスからエネルギー流を発射した。洋子のシールドを突き破り、洋子ごと街をなぎ払っていく。

「もう……やだよう……」

 いずみの呟きに、轟音が被さる。唯と可憐を連れ、淳がそばに実体化した。何も言わず、小刻みに震えるいずみの肩をしっかりと抱く。街を、住んでいた家を破壊され、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえてくる。いずみの口から漏れる嗚咽が、それに被さる。

「大口をたたいたわりには、やられっ放しだな」

 ゆらっと空間が揺れ、西御寺が姿を見せる。

「ダハーカ!」

 可憐が、サイコスピアを構える。

「マナイユか。ジェハとヤートゥが世話になったな」
「ちょっかいを出す方が悪いのよ」
「ふん……ま、どのみち俺が片付けてやるさ」
「言ったわね!」

 可憐が光の螺旋を西御寺に向かって打ち出す。西御寺の打ち出した闇が、それを吸収し、光と闇の閃光となって、街へ落ちていく。続けざま、闇の壁が西御寺を中心に現れて、ガーディアンたちを取り囲んでいく。

「もう! 次から次へと!……」

 コンソールを操作していたコズエが、新たに西御寺をターゲットに加えるべく、モニタリングを開始する。

「いけるわ」

 コズエが、最後のキーを打ち込んだ時、ピピッと微かな音が、自動照準センサーから発せられる。

「よし、いけぇ!!!」

 コズエの脇にあったパラディメンジョンブラスターが閃光を放った。




「唯!……」

 龍之介が戦闘現場から少し離れたところで様子を見ていた。

「見つけたぞ。絶対に連れて帰るからな……」

 戦闘は、激しさを増していく。街が破壊され、瓦礫の山が築かれていく。洋子を中心にして、何かが現れたと思ったら、闇の流れが唯たちを襲った。唯と可憐が巻き込まれて、吹き飛ばされる。

「ゆ、唯!」

 龍之介は、思わず駆け出した。





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