The story of a certain boyish girl.

いずみと龍之介の物語♪
Spring of Love!


… A-Part …



 私は龍之介の返事を待っていた。心臓がすごくドキドキしてる。駄目だということはわかってた。いつもいつも喧嘩ばかりしてたがさつな私を龍之介が好きだと言ってくれるはずがない。でも、はっきり龍之介の口からそれを聞かないと、あんなことがあっただけにとても諦めきれなかった。少し肩が震える。覚悟はしてるつもりだった。でも、やっぱり怖い。龍之介が顔を上げて、私を見る。真っ直ぐな視線。あんまり切なくて、涙が零れそうだった。

「やっぱり、いやだよな……私なんか……」

 そう言った途端、不意に龍之介が口を開いた。そして、それが、私が龍之介と紡ぐ物語の始まりの合図になった。

「俺、いずみの恋人になるよ」
「!」



「はあ〜…………」
「先輩?」

 駄目だ……気合いを入れようと思って、弓道場に来てみたけど、全然集中できない。どうしたらいいんだろう……

「はあ〜〜…………」
「あの、先輩?」

 ため息ばっか出てくる……

「はあ〜〜〜…………」
「いずみ先輩!」
「へ?」

 やば!……またぼっとして!……

「具合でも悪いんですか?」
「あ? あは……あはは。なんだ、春奈か」
「なんだ春奈かって……すみませんねぇ、龍之介先輩じゃなくて」
「ば!……」
「あはははは! 図星〜! もう、先輩ったらかわいいんですからぁ!」
「な、なにを! べ、別に龍之介のことなんか!」
「うふふ……赤い顔して言ったってダメですよぉ」
「え?」

 うっく!…………そういえばなんとなく顔が熱い……う、嘘だろ……

「具合が悪いっていうより、幸せすぎて心ここにあらずって感じですね〜」

 春奈がにやにや笑いながら、んなことを言う。はぁ〜……それだったら、どんなによかったか……

「な、なんなんだよ。その幸せすぎてってのは?」
「もう! あ〜んなことしてたくせにぃ。ばっくれたって、ム・ダ・で・す・よ!」

 そうなんだよ。それが問題なんだよ……でもまあ、いつかはわかっちゃうことなんだけど、もうちょっと……なあ……

「はあ〜…………」
「あらら?」
「はあ〜〜…………」
「先輩、ホントにどうしたんですか?」
「いや……なんというか………は〜……」
「ま、まさか!……」
「ん?」
「まさか! もう喧嘩したとか!?」

 ずるっ!

「いけませんよぉ。昔の癖でほいほい言い合ったりしちゃぁ。なんたって、恋人なんですからね、こ・い・び・と。やっぱ、男の人って、自分の恋人にはかわいく『うふっ』とか言って欲しいんですからぁ。今のうちなら、『ごめんね。ハ〜ト』とか言ったら許してもらえますよ。龍之介先輩優しいし。悩んでる場合じゃないですよ。ほら、先輩!」
「あの……」
「なんですか、ずっこけちゃって。もう、しっかりしなくちゃダメですよ。龍之介先輩はああいう人なんですから、先輩がしっかりついててあげないと! ああ! なのに、もう喧嘩しちゃうなんて!」
「だから……」
「そうだ! こういう時こそ、お友達ですよ!」
「な、な?……」
「ほら、なんておっしゃいましたっけ……そうそう! 水野さん!」
「え…………」
「一番先輩と仲いいし、龍之介先輩とも仲がいいんですよね! そうだぁ、水野さんに相談すれば、何かいい知恵を出してもらえますよ! うん!」
「駄目!!」

 う……やべ……声が大きすぎた……みんな見てる……

「せ、先輩?」
「と……ともかく! 私は龍之介と喧嘩なんかしてないし、別になんにもないの!」
「なるほど…………水野さんも関係してるんですね?」

 をい……なぜそっちへ話が飛ぶ?…………あながち外れてはいないけど……

「そ、その……何というか……」
「わかりました。こうなったら、龍之介先輩に一番近い」

 ぎく。

「鳴沢さんに相談するしかないですね!」
「よ! 余計、駄目だぁ〜〜!!!」

 ああ……完璧に注目の的だぁ……しくしく……

「……鳴沢さんにも関係があるんですね。そうですか……わかりました」

 な、何が?……

「私が直接、龍之介先輩に……」
「だぁ〜〜! だからぁ、私はなんともないから。な? 心配するようなことはないの」
「でも……」
「そ、それより。練習してろ、練習」
「…………」
「あのな、部長が練習ほったらかしてお喋りしてたら、示しがつかないだろ? な?」
「先輩……」
「な、なんだ?」
「私……ぐすっ……そんなに信用ないですか?」

 だぁ〜〜〜〜! い、いきなり泣くなぁ〜〜!!

「そ、そうじゃなくて! な、ほら、もうすぐ卒業だろ? だからちょっとしんみりしちゃってさ……」
「いいんです……ぐすっ……私、先輩には迷惑ばかりかけてましたから……ぐすっ」
「いや、だから、違うって……」
「すみません………ひっく……身の程もわきまえずに………ぐすっ」

 だから、ぽろぽろ涙をこぼすんじゃな〜い! 泣きたいのはこっちなんだよ……

「なに後輩をいぢめてるの、あんた」

 う…………その声は……

「か、香織…………」
「落ち込んでるかと思えば、こんなとこで後輩泣かしてるし。何やってんのよ、一体」
「そ、そういう香織こそ、なんでここに……」
「あんたがどんよりした顔で弓道場に行ったって聞いたから様子を見に来たのよ」
「う………」
「そしたら春奈を泣かしてるし。なぁに? 龍之介君と喧嘩でもしたの?」

 がく…………お、同じこと言われた………私って……しくしく

「ったく、恋人と喧嘩したからって何も後輩に八つ当たりしなくても……」
「だ、だから、それは違う………」
「ほらほら、春奈も泣きやみなさい」

 き、聞いてない……

「ひっく……でも……ひっく……」
「ほら、いずみ!」

 う……香織が睨んでる……こ、怖ひ……

「あ、あの……わかったからさ……ちゃんと話すから、な?」
「ほ、本当ですかぁ?……ひっく……」
「本当だよ。だから、な?」
「は、はい……ぐすっ」

 ああ、一体なんでこんな……

「ほら、春奈はここに座って」
「はい……ぐすっ」
「さて、それじゃあ、きっちり話してもらいましょうか。一体何があったのか」

 はぁぁ……こんなことやってる気分じゃないっていうのになぁ……

「いずみ!」
「わ、わかったよ……ええと……」

 やっぱり、そもそもからだろうな……
 始業式の日、龍之介が私の告白を受け入れてくれて、その後…………



「いずみ?」
「なに?」
「そろそろ帰らなくていいのか?」
「…………やだ……」
「でも、もう5時になるぜ」
「……龍之介は帰りたい?」
「俺は別にかまわないけど」
「じゃあ、私もいい」
「でも寒いだろ?」
「ううん…………だって……」

 龍之介がこうして抱きしめてくれてるから。
 龍之介がこうして髪をなでてくれてるから。
 龍之介がこうして話しかけてくれるから。
 私は寒くなんかない。暖かい……とても暖かい……それに……
 嬉しい…………

「やれやれ」
「くす……」
「なんだ?」
「なんでもない」
「なんでもないのに笑ったりしないだろ?」
「何でもないって」

 だって、照れくさいじゃないか。

 あの龍之介と、喧嘩ばかりしてた龍之介と、大大大好きな龍之介とこうしてられるなんて。夢みたいだって……そんなこと言ったら「いずみらしくない」って言うだろ?

 誰もいない部室。道場じゃ寒いからって私が引っ張りこんだんだ。今日は練習がないんで、誰も来ないからって。龍之介はこそこそしてるみたいで嫌だったかもしれないけど、私が寒いと言ったら、黙って言うことを聞いてくれた。優しい龍之介……

「風が出てきたな」
「うん……」

 ドアがかたかたと音を立ててる。きっと外は寒いんだろう。でも私は暖かい。
 それが嬉しくて、龍之介の胸に顔を埋めながら、またくすりと笑った。

「また笑ったぞ」
「うん………」
「変な奴だな」
「いいじゃないか」
「別に悪かないけどな」
「だろ?」

 馬鹿みたい? かもしれない。でもいい。龍之介は優しいから。

「いずみ?」
「なに?」
「やっぱり、そろそろ帰ろうぜ」
「…………いやだ」
「今のうちに大人しく帰らないと、変なところに連れ込むぞ」
「…………龍之介がそうしたいんだったら…………」
「は?」
「私はいい…………」
「おいおい」

 ふふ。困ってる困ってる。でもホントにいいんだ……私……

「仕方ないなぁ」
「どうする?」
「……よし。じゃあこうする」
「え?」

 龍之介?……あ……わ、わ、わ! な、な、な、何!?

「!!!……………………」

 りゅ、龍之介の! く、く……くち……くち………くちびる…………

 だめ…………何も…………考え……られ……ない…………

「さっさと帰らないと、次は服を脱がすぞ」
「……………………」
「いずみ?」
「……………………」
「おい、いずみ?」
「か……」
「か?」
「体に力が…………入らない……」
「はぁ?」

 し、心臓が………すごく………ドキドキ言ってて………頭が……ぼうっと……

「おい、しっかりしろよ」
「だって…………」

 へ、変だ。龍之介が抱いててくれなきゃ、床に座り込んじゃうよぉ。

「しょうがねえな……よいしょっと」

 あ、こら!

「馬鹿!……お、降ろせ!……」
「力が入らないんなら、仕方ないだろ」

 だからって……だからって、抱き上げる奴があるかよ!……そりゃ嬉しいけど……

「じゃ、帰るぞ」
「か、帰るって……このままか?」
「自分で立てないんなら、こうするしかないだろ」
「だ、誰かに見られたら!……」
「聞く耳持ちませ〜ん」

 言うなり龍之介は部室のドアをあけた。

「どひゃ〜!!」
「どわぁ!」
「え?」

 凍り付いてる人影が二つ。

「あは……あははは……あはははは」
「香織?……春奈?」
「あはははは………こ、こんにちは、先輩」

 木枯らしが吹き抜けた。

「の!……」
「の?」
「のぞいてたなぁ〜〜!!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「逃げるな〜!!」

 といって待つやつはいない……あっと言う間に二人の姿は見えなくなった。

「お幸せに〜!」

 とか何とか言いながら。



「そういや、なんであの時いたんだ?」
「私は……忘れ物です」
「わ、私も春奈とおんなじ! 忘れ物よ!」
「へえぇ。ほぉぉ……春奈はともかく、私と一緒に引退した香織が忘れ物〜?」
「そ、そうよ。お、おかしい?」
「まあ、今はそれどこじゃないから、別にいいけどね」
「そ、それより。それがなんであんたの落ち込みの原因になるのよ」
「そうじゃないよ……その後に起こったことが問題なんだ」
「その後?」
「そう……あんたたちがどっかに行ってから」



「な、なんだったんだ?」
「…………」
「いずみ?」
「み、見られたよぉ」
「何を?」
「何をって………その……多分、全部……」
「別に気にしないけど?」
「は! 恥ずかしいだろぉ!?」
「まあ、多少はな」
「多少はって」
「別にやましいことをしてたわけじゃなし」
「そりゃそうだけど」
「付き合ってるってことは、いずれわかることだし」
「馬鹿! キスしてたのだって見られたんだぞ!」
「それはまあ…………」

 不意に龍之介の言葉が途切れた。

「どうし……」
「友美?」

 え!!?

 慌てて振り返ると…………

「あ、ご……ごめんなさい……あの……いずみちゃんが……」

 青い顔をして友美が立っていた。足下に鞄が転がってる。

「友美……」
「ごめんなさい。その……」

 音を立てて血が引いていくっていうのは、本当にそんな感じがするんだってことを初めて知った。

「龍之介……降ろして……」
「あ、ああ……」

 龍之介は、そっと地面に足がつくように優しく降ろしてくれたけど、私はそれどころじゃなかった。

「友美……ごめ……」
「な、なに? 変ないずみちゃん」
「何って……」
「い、いずみちゃん、何もしてないじゃない」

 友美の声が掠れてる。

「い、一緒に帰ろうかって、おも……思ったけど……先に帰るわね」
「友美……」
「じゃ、じゃぁね、いずみちゃん」

 そういうと、鞄も拾わずに友美は走っていった…………目に涙を浮かべていたのがわかった……

「私……私……」

 知ってたじゃないか! 友美が龍之介のことををどう思ってたかなんて。知ってて、龍之介に告白したんじゃないか! 知ってて………友美を裏切ることになるって知ってて……自分の気持ちがどうしようもなくて……龍之介に抱いてもらったことで…………体だけじゃなくて心も龍之介のものにして欲しくて……だから知ってて………

「私……わた……」

 わかってて……わかってて……浮かれてたんじゃないか……浮かれて……

「いずみ……」
「……ひっく……わた……し……知ってたんだ……」
「いずみ?」
「知ってて……浮かれて……たんだ……ひっく……」
「…………」
「わかって……ひっく……たのに……わかって………でも……私……ひっく……」

 龍之介が何も言わず抱きしめてくれた。さっきまでの幸せな気分はどこかへ行ってしまった。けど……だけど…………それでも龍之介は暖かかった………



「水野さんが…………」
「うん…………」

 春奈は黙り込んでいる。何て言っていいかわからないみたいだ。空気が重い。

「でな。続きがあるんだ……」
「続き?」



 明くる日。友美は休んだ。当たり前だ。私だって立場が同じだったら他にどうしようもない。私はといえば、どんよりした気分のまま、何も手につかず、お昼になっても机につっぷしたままぼんやりしていた。龍之介は……あきらとどっかへ行ってる。こういう時、龍之介の脳天気さがちょっと恨めしくなる。…………ほんのちょっとだけどね。…………ホントにちょっとだけだぞ。

「いずみちゃん、顔色良くないけど、大丈夫?」

 唯が心配して声をかけてきた。いつもお昼になった途端に「メシ〜!」と叫ぶ私がお弁当も出さずにぼうっとしてるからだ。でも私は唯の顔をまともに見られない。唯の目が私と同じだから。私と同じ人を唯も見つめているから……

「あ……ああ。ちょっと風邪気味なだけ。大丈夫だよ」
「だったらいいけど……友美ちゃんもお休みだし。風邪がはやってるのかなぁ?」

 唯はまだ知らない。知られるのが怖い。でも隠しておくわけにはいかない。

「そういえば、昨日お兄ちゃんが友美ちゃんの鞄を持って帰ってきたんだよね。絶対何かあったんだよ」
「う……うん……」
「でも教えてくんないんだよ。ねぇ、いずみちゃん知らない?」
「………………」
「いずみちゃん?」
「………………」
「いずみちゃんってば?」
「え? あ、ああ。大丈夫………」

 唯が知ったら……私は……

「ねえ、保健室へ行こ」
「大丈夫…………」
「全然大丈夫じゃないよ。ほら、立って!」

 唯のなすがままに席を立って、歩き始める。それでも唯の顔が見られない。

「熱はない?」
「うん……」
「どれどれ……」

 唯の手の温もりが気持ちいい。私……私!……

「い、いずみちゃん?」

 声は出ない。けど、涙がこぼれて止まらなくなって……

「どうしたの? どっか痛いの?」

 違うよ、唯。ううん、痛いのは痛い。痛いのは心……

「いずみちゃん?!」
「ご………」
「なに?」
「ごめん……唯……」

 どうしようもなくいたたまれなくなって、その場から走り出してしまった。

「いずみ……ん!」

 唯が呼んでる。私を心配して呼んでる。変に思っても勘ぐったりしない素直な唯。女の私から見ても、ううん、私なんかよりずっと可愛い唯。なのに……
 私はずるい? 傲慢? 醜い? きっとそうだろう。わかっててあんなことをしたんだから。だからこれは私が受けなくちゃいけない罰……それでも龍之介を諦めきれない私が受けなくちゃいけない罰…………

 そしてその明くる日。唯も休んだ。



「ずるいよね……私……」

 香織も春奈も何も言わない。

「でも駄目なんだ……」

 春奈が肩を抱いてくれた。温かい。私の周りにいる人は、みんな温かい。

「それでも……それでも私………」
「先輩…………」
「最低だよね………」

 不意に香織が立ち上がった。

「よし! わかったわ!」
「え?」
「なんのための友達だと思ってるの? あんた?」
「え? え、え?」
「春奈。あんたも手伝いなさい」
「は、はい……?」
「か、香織?」
「私、そんなあんたを見てたかないわ、いずみ」
「ご、ごめん……」
「あぁ! それがやなのよ! ともかく!」

 言うなり香織は私をビシッ!と指さした。

「はい……?」
「私が何とかするから、あんたは家に帰りなさい」
「へ?」
「き・こ・え・な・かっ・た?」
「き、聞こえた…………」
「じゃあ、さっさと帰りなさい。これからの段取りは春奈と二人でやるから」
「で、でも…………」
「か・え・る・の!」
「は、はい」

 うう……こ、怖ひ…………

「さて春奈。いずみが帰るのを見届けたら作戦開始よ」

 さ、作戦って……………



 それからしばらくしたある日の夜。龍之介から電話があった。…………私はやっぱりひどい女だ。友美や唯のことを気にしてるくせに、龍之介と聞いただけでうきうきしてる…………

『いずみ?』
「う、うん」
『大丈夫か?』
「ど、どうしたんだ? 私、別に病気でも何でもないぞ」
『ならいいけどな……それより、今度の日曜は空いてるか?』
「日曜?」

 胸がどきんと鳴る。

「あ、空いてる…………」
『じゃあ、10時に八十八駅で待ってるからな』
「うん」
『ちゃんとおめかしして来いよ』
「うん…………」
『………………』

  あ、あれ? 電話の向こうで龍之介がずっこけてるような………

『…………いずみ』
「な、なに?」
『やっぱ、熱でもあるんじゃないのか?』
「ど、どうして? 熱なんかないよ」
『妙だぞ』
「別に………何もないよ………」
『なんからしくないっていうか……やっぱりあれか』
「あれって?」
『唯と友美』
「……………………」

 龍之介のため息が受話器から聞こえた。

「知って……たのか?」
『ま、まあ、薄々だけどな。俺だってそこまで鈍感じゃないし』
「知ってて……知っててなんで……」
『おいおい。言わせるなよ。わからないか?』
「………………」

 本当に? 本当に? でも唯と友美は…………

『それはともかくだ。よし、こうしよう』
「え?」
『二人のことは俺が何とかする』
「でも……」
『いずみはもやもやを頭から追い出して、しっかり食べてぐっすり寝ること』
「龍之介」
『俺が惚れたのは、元気で威勢のいい、いずみだからな』

 うわぁ! いきなり、は、恥ずかしいことを……

『明日はいつもみたいに可愛く笑って見せてくれよ』

 どっかぁ〜ん!!

『いずみ?』
「………………………」
『おい、いずみ?』
「………………………」

 恥ずかしくて返事なんかできないよぉ〜。

『いずみ、どうした?』
「な、なんでもない」

 こ、こ、声がうわずってるぅ。

『……ま、後のことは俺にまかせとけって』
「うん……」
『なんだよ。信じてないなぁ』
「そ、そんなことない!……信じてる……よ……」
『そうそう。伊達に唯や友美とつきあいが長い訳じゃないからな。心配すんな』
「うん…………」

 なぜだろう。龍之介のその言葉がちくんと胸に痛かった。



《 B-Partへ続く 》

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