ナマイキなんだよっ!ガイジンのくせにっ!

あっち行けよ!

ふんっ!いっつもおどおどしちゃってさ。

こっち来ないで!!

あたしが何したって言うのよっ……

あっち行けって言ってるだろっ!!

痛い! やめてよっ……!痛いっ!痛いっ!

うるせぇっ!!

な!…なんでなぐるのよぉ!

うっとおしいんだよっ!!

あすかをいじめるなぁ〜〜!!

けっ!…もう来やがった。

いっつも碇くんに味方してもらってさ! なによっ。

しんじ…………

はぁはぁ……あすか、だいじょうぶ?

……………………

あすか?

……もない……

え?

何でもないのっ!……


それは

幼子の心に残った記憶


しんじ?

ええ。碇シンジっていうの。仲良くしてあげてね。
ほら、シンジ、アスカちゃんよ。ご挨拶なさい。

…………あの…

なに?

…………その…

うん。

…………えと…

やれやれ。ごめんね、アスカちゃん。この子、人見知りがひどくて。

いいんです。気にしないでください。

ほんとにごめんね。最近はそういうこともなくなってたのに……え?

…………ママ……か…

なぁに?言いたいことがあるならはっきり……え?…………ぷっ!

どうかしたんですか、おばさま?

くすくす……あのね、アスカちゃん、シンジったら…

お、おかあさんっ!

やぁねぇ、照れちゃって、もう。
あのね、アスカちゃんがあんまり綺麗なんで、びっくりしてたんですって。
くすくす…

え?

うふふ。しょうがない、おませさんでしょ。でも仲良くしてあげてね。

は、はい。

シンジもよ。
アスカちゃん、日本にきたばかりなんだから、危ないこととかあったら、
ちゃんとシンジが守ってあげるのよ。
うふふ。

う……うん!


忘れない記憶

たったひとつの絆


アスカちゃん…可哀相に……

いくらああいう状況とはいえ、実の母親が……

だから私は反対したのよ…あんな危険な実験…

今更言っても詮無いことさ……

アスカちゃん…辛かったでしょう。いいのよ、もう我慢しなくても。

いいの……泣かないって決めたから。

偉いのね……でも無理しないでいいのよ…

私は……泣かないの……もう泣かないの!

アスカちゃん……

ママが私のこと要らないんなら、私だってママなんかいらない……!

……相当ひどい状況だったらしい…

弱い人間だったからな、彼女は……
夫に捨てられたのが、余程堪えたんだろうよ…

離婚後、わずか3ヶ月で破綻……か。

いいのっ! 私は一人でいいんだからっ!!


何もかもなくしてしまった少女が

たったひとつ持つことを許された思い出


何考えてんのよっ!バカッ!

いたっ!ちょっと、痛いよ、アスカぁ。

おじさまもおばさまもいないのに、
大怪我でもしたらどうするつもりだったのよっ!!

でもアスカが……

でももヘチマもないのっ!

だって……約束したじゃないか…!

だからって……だからって…!
あんたに何かあったらどうしようもないじゃない……!!

ああっ……そ、その、アスカぁ、泣かないでよ。ねぇ、アスカってばぁ

ばか……! ほんとにバカシンジなんだからぁ……








NEON GENESIS EVANGELION
ALTERNATIVE STORY
IF THE MOON WERE GOD
EPISODE 1
Good Luck : C-PART

第壱話
足音は未だ遠く [ C-PART ]




 伊吹マヤは「まやちょん」と生徒に呼ばれている。変声期特有の掠れたような野太いような それでいて甲高いような変な声で斉唱されると少し引いてしまうのだが、あの少女期特有の ころころとした黄色い声には、思わずにっこりと答えてしまう。尤も、初めてそう呼ばれた 時には何やら作為があるような気がして憂鬱な気分になったり、不機嫌な顔をして見せたりも したのだが、それもまあ、碇シンジが恥ずかしそうに口にした時から、あからさまに込められた 好意を疑うことはやめにすることにしていた。

 さて、その「まやちょん」だが、リツコに依頼された用件が案外と早く片付いたので、 ちょっと早めのお三時を嗜むべく、ジオフロントの見下ろせる喫茶室に腰を落ち着けていた。 如何に彼女が真面目で潔癖症とはいえ、年がら年中力を入れて仕事に取り組んでいては 皺も増えるし肩も凝る。まだまだ若いし素敵な恋もしたい年頃なんだから、そういうのは 願い下げだし、先輩だって時々授業中に姿を消しては、今日は珈琲のおいしいお店をどこで 見つけたとか嬉しそうに言ってるくらいだから、これくらい許容範囲よねと思ってる。

「あら、マヤちゃんじゃない?」

 そして、ジオフロントの光景をぼけらっと眺めながら、ああ、今日もホットミルクが おいしいわなどと浸っている時だった。

「マヤちゃん?」

 午前中にリツコと交わした会話が頭の中でリフレインしている。いよいよファースト、 セカンド、サードが選出される。ファーストはほぼ確定。セカンドもまず予想している 通りだとして、彼女が気にしているのは、まだ充分な検討が加えられておらず、従って 決定が流動的なサードについてだった。『彼』が名簿のトップに記載されていることは 早くから知っていたが、多くの候補者から選抜されることもあって、いずれ脱落する…… リツコに打ち明けたことはないが、そう願っていることはまぎれもない事実であった。 しかし、未だに『彼』は記載されたままで……

「ま〜やちょん♪」
「は、はいぃ?!」

 こ、こんなところで、誰っ!?と彼女が振り返るととそこには、

「やっと気がついた。どうしたの? なんだか考え事してたみたいだけど?」

 恐れ多くも畏くも特務機関ネルフ第一技術部長碇ユイ博士がにこにこと温和な笑顔で マヤの顔を覗き込んでいた。

「い、い、碇部長っ!」
「あらん。そんな堅苦しい呼び方はよしてって言ったのにぃ。『ユイお姉様』って呼んで頂戴」
「そ、そ、そ、それは……!」

 それは無理というものである。今は亡き赤木ナオコの娘にして後継者、天才の誉れ高き 赤木リツコ博士ですら頭が上がらないと噂されるユイを相手に、いくらスキップしたとは いえ、大学院を出て間もないマヤに、タメ口と変わらないそんな物言いができるはずもない。 ……それ以前に、お姉様などという妖しい言葉にも問題はあるが。

「…………淋しいわ。やっぱり、あなたもリッちゃんみたいに若い子がいいのね」
「いえ、あの、その」

 若い? 先輩が若い? 確かにユイに比べれば若いだろうが、マヤからすれば二人とも 差があるわけではない。リツコが聞いたら「この口が言うのね、この口が」と怨念の こもった薄笑いを浮かべそうなことが頭をよぎるが、マヤは既にパニック状態である。

「もう、まやちょん♪ったら真面目なんだから☆」

 え? え? えっ? と、顔を真っ赤にしてマヤは焦っている。その様子を見てユイが くすくすと笑う。それで尚更焦る。ますますユイが笑う。5分ほどそれを繰り返した。




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